物理化学の現象を
利用したモノづくり。

応用分子化学科 日秋 俊彦

物理化学の現象を利用したモノづくり。

応用分子化学科 日秋 俊彦

5000年前に発明された
蒸留技術は現在も分離技術の中心

自然界に存在するものはそれが固体であっても液体であっても、一般的には複数の物質を含む混合物です。また化学者が高度な知識と技術を駆使して化学物質を合成する場合でも、必ず不純物を含んだ混合物として得られます。このような混合物から必要な物質だけを取り出す分離技術のひとつが蒸留です。蒸留の歴史は紀元前3500年ころにさかのぼり,花弁や葉から香水を作るために発明されたとされています。また、醸造酒の蒸留は紀元前750年ころにビールを蒸留することからはじまったようです。香水も蒸留酒も水に溶けた揮発性の有機化合物を濃縮する方法として発明され、現在も高純度化技術の中心として産業界で広く使われています。(写真提供:日本リファイン(株))

蒸留塔の設計には化学技術者の知識が必要

化学産業が供給する製品は自動車,家電製品,日用雑貨,衣料,医薬品,化粧品など、生活の隅々まで用いられています。これらの製品原料の多くは化学反応を利用して合成され、蒸留などの精製技術で高純度化されます。蒸留の原理は、混合液体が沸騰し発生する蒸気の組成が、液の組成と異なることを利用するものです。これは揮発しやすい物質が蒸気に多く含まれるから起きる現象で、混合溶液の沸騰と凝縮を繰り返すことにより、欲しい成分を必要な濃度にして取り出すことができるのです。蒸留プロセスを設計するため必要な情報は気液平衡データ(温度,圧力,気相組成および液相組成)です。私の研究室では気液平衡測定装置の開発をするとともに、多くの気液平衡データを測定し発表してきました。写真の装置は当研究室で設計し、ガラス器具製作の専門メーカー「桐山製作所」の協力により完成した、真空から10気圧までの圧力範囲で気液平衡測定ができる装置です。以前にステンレスで作製したことがありますが、ガラス製でこのような圧力に耐えられる装置は世界に例がありません。研究室で培った装置作りのノウハウと製作会社の高い技術によって誕生したものです。

研究室で測定されたデータで
海外の化学プラントが作られています

高純度の製品を安価に作るには、省エネルギーの分離プロセスが必要になります。分離プロセスの省エネルギー化には、ご紹介した蒸留をはじめ多くの分離技術の中から最適な方法を選びますが、正確な物性データを使うことがカギになります。特に気体,液体,固体の平衡物性データは理論的にも工業的にも重要で、測定装置も自身で設計したものを使います。これまでに研究室で測定したデータを使って、国内の化学会社やエンジニアリング会社が設計した化学プラントがいくつも海外で稼働しています。またご紹介した気液平衡測定装置は、国内十数社の企業が使っており、韓国の大学でも研究に使われています。

資源、エネルギー、経済性を考慮し、生体への影響を含めた総合的な環境負荷を最小限にする化学プロセスの実現を目指した研究をしています。化学プロセスは反応プロセスと分離プロセスで構成されます。反応プロセスの研究テーマは、高温高圧の水の中で有機化合物の合成や無機ナノ粒子の合成を行っています。これは水の特異な性質を利用したもので、温度、圧力などを制御することにより実現することができます。また分離プロセスの研究テーマは、沸点の違いで液体を分離する「蒸留」や融点の違いで固体を分ける「晶析」装置の設計に向けた物性データの測定を行っています。

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