RESEARCH

生命工学・リサーチ・センター 研究プロジェクト

平成17年度文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業(学術フロンティア)採択

「生命工学を応用した資源循環型社会の構築に関する研究」

1 生命・生物工学に基づく健康と疾患の研究グループ

1-1 生命体の構成におけるDNA情報―RNAによる発現タンパク質の健常時あるいは疾患時の差の究明

(1) A型インフルエンザウィルス(Aフル・無感染性)の核タンパク質に対するマウスモノクローナル抗体をラテックス微粒子に感作させたラテックス試薬を用いて、Aフルに対する反応性を検討しました。一方、AフルのHA遺伝子に対するプライマーを作成しRT-PCR法の試験を行いました。試作したラテックス試薬を用いた光学的自動免疫検査の結果とRT-PCRの結果と比し、ラテックス試薬の実用化の見通しが得られました。

▲アストロウィルスの培養実験

▲アストロウィルスの培養実験

(2) 認知症(アルツハイマー病)においてはAmyloid βprotein(Aβ)が患者脳内にて凝集し線維化する事により、患者の記憶に障害が起こることが知られています。毒性の強い、Aβ1-42を合成し、凝集Aβ1-42のラット胎児海馬神経細胞に対する毒性を蛍光顕微鏡により観察し、その毒性を確認しました。引き続きアルツハイマー病の迅速診断法の研究開発を進めています。

1-2 微生物学を中心とした生命工学としての研究

水素生産を目的として、光合成細菌Rhodobacter sphaeroides RV(RV)及び発酵菌Rhizopusoryzaeとの混合培養技術を発展させるため、RVに代わる菌を環境微生物より入手すべく、下水中より多くの菌を採取分離・同定し、RVと水素生産能有する菌の数種を得ました。一方、実用化のため、培養槽の温度制御、攪拌混合、培養液の光透過性についての研究を進めています。

1-3 遺伝子・DNAやその産生タンパク質の配列や発現時の分析学的研究

ひとの食中毒・ガス壊疽・壊死性腸炎などの感染症の原因となる「Clostridium difficile」及び「Clostridium perfringens」の対策は、安心・安全の観点から重要です。これら細菌が産生する毒素タンパクの生成機序の解析及び、毒素タンパクの取得などを遺伝子解析及び免疫学的研究の面から研究し、これら腸内細菌の迅速定量法の実用か研究を進めています

1-4 抗原抗体免疫反応による生体機構の分析に関する研究

ひとが感染等により臓器などに炎症を起こした時にCRP(C-Reactive Protein)の血中濃度が上昇しますが、それ以外に心筋梗塞、狭心症の場合にCRPが微量変化するとの報告があります。このため、光学的テラックス免疫測定システムに使用される高感度CRPテラックス試薬の研究開発を行い、担体テラックスに結合する多種類のアミノ酸の分子鎖を検討し、Arg、Gly、Met、Thr及びHisなどを結合させることによりテラックス試薬の免疫反応性が高くなることが判りました。高感度試薬の開発については、メアボリックシンドローム関連のアジトポサイトカイン(レプチン・アジポネクチンなど)の微量成分の迅速定量に関する研究を進めています。

▲フローサイトメトリーによるレプチンとCRPの2項目同時解析

▲フローサイトメトリーによるレプチンとCRPの2項目同時解析

1-5 生命工学における臨床診断薬の研究開発

融合細胞(Hybridoma)によるモノクローナル抗体の作製を行い、基盤技術としての抗体取得技術の開発を進めています。一方、血液凝固線溶系におけるD-dimerのイムノアッセイによる高感度迅速診断法の開発研究を行っています。光学的ラテックス免疫測定システムの担体ラテックスにカルボキシル基修飾し、アルギニンをスペーサーとして導入したD-dimerを感作したラテックス試薬の研究開発を進めています。

1-6 フタロシアニン誘導体の合成と癌光線力学療法用増感剤を中心とした光利用技術の開発

フタロシニアン(PC)化合物は、ヘモグロビン、葉緑素及びビタミンB12などのポルフィリン類緑化合物です。PCを次世代の癌光線力学療法(PDT:photodynamictherapyofcancer)用の光増感色素として研究を推進しています。PDTは皮膚浸透性の高い近赤外レーザー光線を体外より、癌組織に吸着しているPC化合物などの光増感色素に照射させると、発生する活性酸素により癌細胞を攻撃する方法です。

ナノ構造体を構築するために、デンドリマー部位を有し、PC化合物を核部位とした光増感性のZn-PCポリカルボン酸を合成し、その化合物の細胞に対する毒性試験を行い実用化に向かって研究を進めています。

1-7 生命・生物流体の輸送・混合過程解明

光合成は光エネルギーを用いた化学物質の分解・合成であり、細菌内にそれらの機能を有するものを光合成細菌といいます。一方、植物は光エネルギーを利用して空気中の二酸化炭素を固定しグルコース等の糖類を合成することにより、成長しています。

我々が取り組んでいるのは、有機物を分解し、水素を排出する機能を有する嫌気性光合成細菌です。水素は酸化反応によって二酸化炭素を排出しないことから、化石燃料の代替として新世代内燃機関、燃料電池など、次期移動体動力源などの主力として注目されています。

本研究は生命工学的見地から水素生産に寄与しようとするものであるとともに、資源循環型エネルギー源の開発に着目したものです。ここでは嫌気性光合成細菌Rhodobacter sphaeroides RV株を利用して有機物質より水素を生産することにより、資源循環に寄与し、その実用化を目指しています。特に光合成細菌の培養環境では、その温度環境制御や光到達量は重要な要素のひとつであるにかかわらず、熱伝達特性や光透過性などの物理的性質は不明な点が多いうえに、その混合過程も複雑です。

ここでは培養攪拌環境における培養液の伝熱特性を測定するとともに、嫌気性光合成細菌Rhodobacter sphaeroides RV株を含む液体培地を用いた回分培養水素生産実験と、培養液の光透過性について定量的検討を行い、最適設計条件を決定しています。またバイオエタノールも資源循環社会構築には重要な要素となります。蒸気に合わせ燃料利用する場合の混合燃料の燃焼性について検討を行うことにより、エネルギー問題特に燃料問題を包括的に生命工学的見地から解決しようと取り組んでいます。

2 資源循環型に即したインフラ施設における有機・無機的な要因の現象解明と改善に関する研究グループ

2-1 生命工学的見地からの下水道施設腐食メカニズムの解明と測定法の確立

快適な生活の維持に必須である耐用50年のコンクリート下水管の腐食が急速に進んでいます。この腐食はCO2による中性化と有機物の分解に起因する堆積物からの硫化水素、下水からの有機物(特に酢酸)、硫黄酸化菌による硫酸の発生などが複合的に作用する現象であることを解明しました(図2-1)。更に多量に発生する硫酸化合物と微生物との関連をあきらかにすべく研究を進めています。なお『コンクリートの腐食診断装置及び診断方法』の名称で現在特許出願中です。

▲硫黄酸化細菌によるコンクリート下水管の腐食表面の想定図

▲硫黄酸化細菌によるコンクリート下水管の腐食表面の想定図

2-2 空間情報による水環境浄化評価

季節の違いに起因する生物学的Chlorophyllのスペクトル特性を、可視光波長帯から近赤外波長帯までハイパースペクトロメーターによって分析し、衛星データによるChlorophyll濃度を推定するための理論を確立しました。衛星リモートセンシングデータから高精度にChlorophyll濃度を計測し、わが国の排他的経済水域を観測しているTearra-Aqua/MODISデータにChlorophyll -a推定アルゴリズムを適用してマクロ的な評価を行っています(右図)。

▲Aqua/MODIS 10日間合成画像

▲Aqua/MODIS 10日間合成画像

2-3 空各研究グル-プとの境界領域の研究

地球環境・エネルギー関係は第1グループと、ヒートアイランド・屋上緑化関係は第3グループと、更にシックハウス症候群は第1・第3グループ両グループとの共同研究テーマとして進めています。

1) 生物学的実験手法によるメタン発酵システムの効率化に関する研究

メタン発酵に関与する微生物の分離培養(右図)及びDNAレベルでの研究を行っており、小規模コミュニティでの実用化を目指しています。第1研究グループとの共同研究テーマです。

2) シックハウス症候群に関する研究

におい識別装置を用いた研究は、官能試験に類似した測定が可能です。シックハウス症候群に関与する材料等から発生するガスを測定すると共に発生ガスの細胞毒性について研究します。この研究テーマは、第1・第3両研究グループとの共同研究テーマです。

▲メタン菌培養後の培地写真(スクリーニング前のコロニー成長状況)

▲メタン菌培養後の培地写真
(スクリーニング前のコロニー成長状況)

3 生命工学に基づく生活・居住環境づくりと共生に関する研究グループ

3-1 資源循環型社会に向けた生活・居住環境づくりと維持・保全

ひとが自然環境と共生していくために、健康への充分な対策が生活の基本です。特に微生物による感染症は重要な問題です。このため生命工学的アプローチにより効果的な集団の安全衛生問題を解決しなければなりません。自然への環境負荷がきわめて少ない資源循環型の生活をしている遊牧民の意識等を研究し、21世紀の新しい生活・居住環境づくりを提言します。

▲遊牧生活の居住空間であるゲルの写真

▲遊牧生活の居住空間であるゲルの写真

3-2 地域環境に立脚した生活・居住環境づくりとまちそだて

エコヴィレッジ型コウハウジングは21世紀の調和持続型社会のまちづくりモデルとして、関心が持たれています。米国のサスティナビリティ運動の主唱者となったDr. Donella H.Meadowsが1996年に設立したサスティナビリティ研究所によって実践されたエコヴィレッジ型コウハウジングの代表的なCobb Hill Cohousingに着目し、コミュニティ活動の受け皿の中心となるコモンハウスの情況と環境共生・活動等の調査を実施して、生命工学的見地から新しいまちづくり・まちそだてを描きます。

▲Cobb Hill Cohousingの外観写真

▲Cobb Hill Cohousingの外観写真

▲コミュニティ活動の受け皿ーコモンハウスー

▲コミュニティ活動の受け皿ーコモンハウスー

3-3 多様なライフサイクル・ライフステージに対応した生活・居住環境づくりと手法

異なる地域環境において、高齢者・障害者を含み込んだ良好な生活・居住空間を創出するためには、固有の地域特性・環境特性に適する生命工学を応用した循環可能な素材・生活機器・空間システムにより構築することが重要な課題になっています。現在研究を進めている建築3D-CADを用いた屋外熱環境の時系列シュミレーションに基づく地域モデルの構築手法は、熱環境をリアルタイムに検証することが可能であれり汎用性があるため、異なった地域に展開することが可能です。

▲建築3D-CADを用いた屋外熱環境のシミュレーション画像写真

▲建築3D-CADを用いた屋外熱環境のシミュレーション画像写真

3-4 鉄筋コンクリート構造物の緑化

コンクリートに直接コケ等の植物を育成させることは、アルカリ性が強いため難しい課題です。しかし、コンクリートの調合、表面の加工、コケ植物の選定により種々の問題を克服し、最終的にコケの生育をコンクリート面で制御し、芸術表現を含み込んだ空間の創造を進めています。

※ 上記掲載内容は、プロジェクト実施当時のものです。

▲コケの生育写真

▲コケの生育写真

このプロジェクトの研究報告書