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応用分子化学科の吉宗一晃教授らのグループが未熟な酵素の形を捉えることに成功

2022.08.01 プレス・成果
日本大学生産工学部の吉宗一晃教授、大阪工業大学工学部の大島敏久教授および東邦大学理学部の後藤勝准教授らのグループは、80℃のような高温で増殖し、50℃以下ではできない超好熱菌がもつある種の酵素を、37℃で生育する大腸菌で遺伝子組換え法を用いて未熟な不活性型で生産し、その活性型への変化機構をとらえることに成功しました。この成果は酵素の本来の立体構造と機能との関係の理解だけでなく、病気の原因の解明、酵素の産業への効利用などへの貢献が期待できます※1。本研究の成果は、国際学術誌「Communication Biology」に2022年7月15日付けで発表されました。
 酵素は生体触媒※2で、20種類のアミノ酸が100~1000個つながった”ひも状のタンパク質”からできており、細胞内のリボソームで遺伝子情報により生産されます。この”ひも状のタンパク質が生産されると一つの形に折りたたまれ、本来の触媒機能(活性)をもつ立体的な構造を形成します。この折りたたみは生物(細胞)が正常に増殖できる環境(温度など)では非常に早いために、これまでその途中の未熟な酵素の形はなかなか捉えることができませんでした。今回、吉宗教授らは、80℃で生育する超好熱アーキア(古細菌)のホモセリン脱水素酵素を37℃で大腸菌に遺伝子組換え法で未熟な酵素(低い触媒活性)として生産させ、その形をX線結晶解析などの分析法を駆使して捉えることに成功しました(図1)。一般に酵素分子はボール状の形をしており、基質と結合し触媒機能を発揮する活性中心(心臓部)の部位とそれを支える構造形成部位が連携して存在します。この活性中心部位は基質(NAD)を捕まえるときに口をひらいた状態の構造をとっており、基質が結合すると全体の構造が次の活性型へ大きく変化します。今回の研究では、低温で生産された未熟な酵素では基質を捕まえるための活性部位の口が十分に開いておらず、基質を捕まえて、活性を発揮するために必要な活性型への変化が十分にできないことを明らかにしました。本研究成果はCommunications Biologyのオンライン版で公開されています。
掲載誌情報
論文名:Conformational changes in the catalytic region are responsible for heat-induced activation of hyperthermophilic homoserine dehydrogenase
雑誌名:Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-022-03656-7
用語解説
※1 この様な高い温度で働く酵素は多くの場面で応用されており、例えば新型コロナウイルスの診断で用いられるPCR検査では90℃でも機能を失わない酵素が使われています。
※2 触媒 化学反応を促進する物質でそれ自身は反応前後で変化しない物質のこと。

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