日本大学生産工学部研究報告B(文系)第56巻
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■■■■■■■■■(CB:中央後列,SF:廊下(スクリーン)側前列,SM:廊下側中列,SB:廊下側後列。)図9  各ブロックにおける科目の進行に伴う着席回数の変動係数変化後列に着席していた学生と同様,人脈形成力が比較的高かった3)。したがって,友人と隣席している可能性が高いと考えられる。一方,廊下側後列は前述した他3ブロックと比較して科目初期における欠席者またはオンライン受講回数(図8,A/OL)が極端に少なく,その状況が科目終期まで続いた。鳥越ら3)は,学生が対面授業の良さとして感じられる第一がコミュニケーションの取りやすさにあると報告している。したがって,廊下側後列には対面授業への出席意欲が高い友人グループが着席し,着席位置をほとんど移動せずにそのまま科目終期まで出席していたと推測される。以上の結果から,GPAと単元試験の平均得点率との相関より得点率の高かった廊下側中列に着席していた当該年次生は,授業の状況により科目進行とともに着席位置を変えていたことが推察された。この結果は,既報 5), 6)の結果と矛盾しない。一方,相関より得点率の低かった中央後列,廊下側前列および後列に着席していた当該年次生は科目を通じて着席位置をほとんど変えていなかったことがわかった。4.4 相関から外れたブロックにおける着席回数の変動係数比較学生の着席位置の移動を簡単かつ定量的に議論するために,GPAと単元試験の平均得点率との相関から外れた4つのブロックについて,各期における各ブロックへの着席回数の変動係数(CV)を算出した。着席位置が偏った場合はCV値が高くなり,分散して平均化された場合には低くなる。図9にCV値の科目進行における変化を示す。科目初期においてはどのブロックもほぼ同じCV値であった。しかしながら,科目中期においては廊下(スクリーン)側後列(図9,SB)を除く3つのブロックでCV値の低下が見られた。この変化─ 7 ─は,該当学生が他のブロックに分散したことを反映している。後期では廊下側前列および中央後列(同SFおよびCB)のCV値は初期の値に戻り,廊下側後列も中期の値と変化しなかった。一方,廊下側中列(同SM)のCV値は中期の値よりさらに低下し,該当学生がより分散したことを示した。これらの結果は各ブロックとも着席位置の変化(図5〜8)を反映していた。この結果からもSMブロックの特徴的な着席位置の移動性を説明することが可能であった。科目初期において廊下側中列に着席していた学生の着席位置の移動性については今後,検討する必要がある。図2で指標としたGPAは主にオンライン授業で獲得したポイントである。また,学習の際に他人の存在を好まない学生は他人が前後に着席している中列を志向しないと考えられる。したがって,科目初期に廊下側中列に着席していた学生は授業内容に対して関心を持ち,かつ1人で学習するよりも他人の存在により学習意欲が向上する学生(学習に対して社会的促進7)効果の大きい学生)である可能性がある。以上,GPAと単元試験の平均得点率との相関から外れた着席位置の学生について,科目の進行に伴う着席位置の移動性について報告した。検討の結果,科目初期に相関より得点率の高かったブロックに着席していた学生は中期,終期に着席位置を移動していた。一方,相関より得点率の低かった位置の学生はほとんど着席位置を移動していなかったことがわかった。この違いは授業に対する関心や授業内容を理解しようとする意識の違いなどによると推測される。分析対象とした科目では科目初期においてほとんどのブロックで着席率が8割程度と差がなく,物理的に学生が単独で着席位置を移動できる余地があった。また,主な情報伝達媒体であるスクリーンが1か所だけ設置されていた状況での結果である。着席率が異なったり,サブスクリーンやモニターなどが設置されていたりする環境では異なる結果となったと考えられる。さらに,履修生の学修意欲や理解力などによっても結果が左右される可能性がある。今回の調査はコロナ禍後ということもあり,履修生相互の人間関係がそれほど構築されていない環境下での結果である。したがって,影響力の非常に強い履2.01.51.00.5■■■■■■■■■■■■■■■■■■5.まとめ

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