*日本大学生産工学部教養・基礎科学系准教授─ 15 ─をするのに石を持ち上げるなど,部族やグループのリーダーを選ぶ方法の一つに利用されていた。やがて石からシャフトと円形のディスクを組み合わせたバーベルが使われるようになり,スポーツとしての競技が始まる。第1回近代オリンピックより前に世界選手権が開催されるなど長い歴史を持っている。オリンピックで行われているウエイトリフティング競技の起源は18世紀のヨーロッパ,サーカスや劇場で行われていた“見せ物”のひとつだとされる。1890年,オーストリア=ハンガリー帝国で初のスポーツ統括団体が設立されると,翌年には6カ国7選手が参加する国際大会がロンドンで開催された 1)。オリンピックにおけるウエイトリフティング競技は1896年の第1回アテネ大会から実施されているが,2000年シドニー大会に女子が採用されるまでは男子のみの実施であった。直近の五輪でのウエイトリフティング競技の選手枠は,2016リオデジャネイロ大会は男女各8階級260人,2020東京大会は男女各7階級196人であり,2024のパリ大会では,男女各5階級120人まで削減されることが決日本大学生産工学部研究報告B2023 年 6 月 第 56 巻資 料Kenichi ARAI*新井健一*1.はじめに2.ウエイトリフティング競技の概要32nd Olympic Games Report (TOKYO2020) WEIGHTLIFTINGキーワード:スポーツ活動,オリンピック,ウエイトリフティング大会期日 2021年7月24日〜8月4日 会場 東京国際フォーラム役職 ウエイトリフティング日本チームコーチ昨年度(R4,2021年度),57年ぶりに東京で開催された第32回オリンピック競技大会にウエイトリフティング競技日本チームコーチとして帯同する機会を得ることができた。世界中に蔓延した新型コロナウイルス感染症の猛威により開催も危ぶまれた東京大会であったが,1年延期での開催が実現した。大抵のスポーツ選手の究極の目標となる舞台にたてるというこの上ない貴重な経験を得た。今回,オリンピック大会へコーチとしてではあるが初めて参加させていただいた体験を報告する。2.1 競技の歴史とオリンピック競技大会ウエイトリフティング(重量挙げ)の起源は,先史時代までさかのぼる。重い石などを持ち上げる行為は“力の象徴”とされ,現在でも伝統行事として行われている地域がある。古代ギリシャでは力比べ第32回 オリンピック競技大会(TOKYO2020)報告書ウエイトリフティング競技
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