生産工学部研究報告B(文系)第55巻
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体対応に関する「指針書」であるのに対して,このA-2文書はそれを具体化した「手引書」的なものにあたる。実際,7名の遺体の処遇はこのA-2文書に基づいて行われている。このA-2文書によると,スガモプリズン内での死亡者の遺体は需品部で扱うことが指示されている(第2項)。具体的には,遺体はスガモプリズンから搬出する前に,需品部専用の遺体登録用紙2通に遺体の氏名・階級の記入と指紋の採取を行い,その後第108墓地登録小隊が派遣する警備兵と輸送トラックを用いて小隊の駐屯地に搬入し,処分のための準備を厳重な管理の下で行うよう指示している(第7項)。そしてスガモプリズンから第108墓地登録小隊に回される遺体のうち,法廷での審理中にあって,なおかつ刑の宣告前に死亡した被告人の遺体は,小隊での手続きが済んだ後に日本側に引き渡すこと(第6項),死刑執行による遺体と,死刑を宣告されてその拘禁中に死亡した者の遺体は,日本側に引き渡すことなく,火葬にして秘密裡に遺灰を海洋散布することが指示されている(第4項)。この遺灰の海洋散布について,さらに具体的な作業指示を出しているのが第7項fである。これによると遺灰の散布方法は,日本人が搭乗・乗船していない第8軍の連絡用飛行機か,船舶を利用し,散布にあたっては需品部が指名する佐官級の将校が行うよう指示されている。実際,12月23日の7名の遺灰は飛行機による散布が行われており,これは第7項fの指示に基づくものである。またその際に利用した飛行機は,現在の横浜市中区若葉町一帯にあった第8軍専用の飛行場から飛び立ったものと思われる。この第8軍専用飛行場の位置は,第8軍司令部から直線距離にして2㎞弱,そして久保山火葬場からも同じく2㎞地点のところにあった。4.3 A-3文書【英文タイトル】なし【日付】1948年12月23日付【発信】Luther Frierson少佐【宛先】不詳【解題】 このA-3文書は,7名の遺灰を海洋散布したLuther Frierson少佐40)による自署付きの報告書である。宛先は明記されていないが,A-2文書第7項fの指示によると,「需品部に指名された佐官級将校が火葬を監督し,自ら遺灰を撒き,需品部にその旨の証明書を提出する)」としてあるため,少佐はこの指示に則って「証明書」としてのA-3文書を作成し,需品部に提出したものと思われる。このA-3文書の内容は非常に簡潔であり,少佐は2週間後の1949年1月4日に改めて詳細な報告書(A-5文書)を作成している。この報告書については本稿で4.5で後述する。何れにしてもこのA-3文書の資料的意義は,この文書に付された日付から,7名の遺体対応が23日にすべて完了したことが確認できることにある。4.4 A-4文書【英文タイトル】Reports of interment and allied paper(埋葬報告書及び関連資料)【日付】1948年12月27日付【発信】第8軍需品部【宛先】陸軍省需品部【解題】 このA-4文書の内容は横浜の第8軍需品部がワシントンD. C.にある陸軍省需品部に宛てた12月13日の処刑報告書で,極めて簡潔にまとめられている。日付などが鉛筆書きでされているなど,一見すると下書き文書とも思える体裁となっている。A-4文書を読むと,この文書には添付資料があることが記述されており,その文書名として「Certificate of processing(処置証明書)」,「ROI(= Report of Interment: 埋葬報告書),death certificates(死亡証明書)& certification of identification for each remains(各遺体の本人証明書)」が記されていた。因みにA-2文書第7項によると,「スガモプリズンから遺体を搬出する前に,氏名,階級,指紋をWD QMC書式1042(正副2通)に記録する」との指示があり,このA-4文書は,正副2通作成されたうちの1通で,ワシントンD. C.にある陸軍省に提出する際に作成した文書の下書きとも考えられる。なおNARAの保管ボックスには,このA-4文書が1枚収められているだけで,記載されている添付資料は一緒に綴じられていなかった。ただし,この添付資料についてはA-4文書とは一緒に綴じられていなかったものの,Aファイルのなかに土肥原,広田,板垣,木村,松井,武藤,東条らそれぞれの①Report of Interment(埋葬報告書),②Certificate(遺体の本人証明書),③Death Certificate(死亡証明書)の3つの文書が単独で収められていた。おそらく,A-4文書に記載されている添付資料とは,この①②③の各文書を指すものと考えられ,本来はA-4文書に付属する形で綴じられていたが,何らかの理由で外れてしまい,現状に至ったものと思われる。なおA-4文書に記載されている添付資料のうち「Certificate of processing(処置証明書)」については,Aファイルのなかに該当する文書が見当たらず,現時点ではどのような文書なのか不詳である。このA-1文書の添付資料と思われるこれらの①②③の各文書は,個人ごとに整理分類されてホッチキス止めされていた。以下,この①~③の各文書の記載をみていく。─ 8 ─

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