日本大学生産工学部研究報告B(文系)第54巻
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( 4 )そしてラジオ放送による求人紹介の場面になる。「職業紹介所では他の紹介所に知らせると共にラヂオを利用し求職者を募集する/ラヂオセットを影しその上に『静岡県安部郡…村…茶園から茶摘婦十五名の求人申込があります/雇入期間は四月二十日から二週間で住込の出来るなるべく経験のある人を望んで居られます御希望の方は支給最寄の職業紹介所へ御申込み下さい』と一字つヽ文字を写し出す)」というのである。本シナリオ案の特徴は、地域産業と連動した公立事業の紹介と、ラジオによる求人開拓宣伝にある。公立事業のラジオ放送は、一九二九年からJOAK(東京)、一九三〇年からJOBK(大阪)で始まっており、地域求人の迅速な宣伝の他、全国的な職業紹介イベントである「求人開拓日」などでも活用されていた。①のシナリオは静岡の代表的産業である茶摘婦の募集と公立事業のラジオ利用を合わせて紹介したものだったことがわかる。②「岐阜地方に於ける提灯団扇、傘製造」も同様のシナリオ案である。こちらもガリ版刷りで全三頁、二四タイトル、五二行である。①と同様、右から左へ縦書きでタイトルと風景カットの記述が繰り返されている。タイトル下には同じく、「撮影ノ時期 六月上旬ヨリ九月下旬」「撮影ノ場所 岐阜市及其ノ附近」と設定が書かれている。最初に、岐阜の提灯、団扇、傘産業の説明が入る。「岐阜はよいとこ金華山の麓小田の蛙が寝て聴ける/舞妓が踊つてゐる場面を写しその上にタイトルの文字を一字つヽ写し出す」ところに始まり、まずは提灯、団扇産業について、「陳列してある大商店の外面及内部を写しその上に『この年産額三十万円』と文字を写し出す」ところから、「夫々分業ではあるが約百戸の製造業者がある」こと、張職、摺物職、塗職、曲物職、絵師、仕上職、竹骨職の作業の説明が入る。続いて傘産業についても、「雨傘が張つて数百本干してある場所を写しその上に『この年産額百万円』と文字を写し出す」ところから、「岐阜市に接続する加納町が主産地で約四百戸の製造業者が夫々分業になつてゐる」こと、張職、仕揚職、轆轤職、紙染職、骨柄竹職、問屋の説明がなされている。その後、職業紹介所での内職部での作業に移る。最初に、「団扇張や傘の竹骨冗明を勧めてゐる」ことが紹介され、「岐阜市職業紹介所の文字看板を入れて同所の入口を影す(次のシーンにスーパーインポーズで)」ところから、「紹介所の内職部の内部を影し団扇張や傘の竹骨冗明を為して居る状況」が大写しされ、「職業紹介所は就職の斡旋ばかりではなく内職の斡旋までしてゐる」との説明で終わっている。②のシナリオ案も、岐阜の地域産業と、公立事業の内職部の紹介にあったことがわかる。③「瀬戸地方に於ける窯業」も右二つのシナリオ案と同様である。ガリ版刷りで、全三頁、一七タイトル、五〇行である。右から左へ縦書きでタイトルと風景カットの記述が繰り返されているタイトル下に、「撮影の時期 不問 撮影の場所 瀬戸市及其ノ附近」と設定がある。導入部分には、「山は照る〳〵瀬戸市は曇る/遠くには山近くには瓦屋根と煙突に煙を出して居る情景/窯業の町として七百年の歴史を持つ瀬戸市」が映される。そして「一千工場を六千人の従業員を有する煙の町の労務需給の調節は瀬戸市職業紹介所が行つてゐる」とされる。次いで、「瀬戸市職業紹介所の文字(看板)を入れて同所の入口を影す」ところから、「殊に少年労務者に対しては職業指導の立場より適材を適所へ紹介することに努めてゐる」とされ、「紹介所の内部で少年が性能検査及身体検査を受けてゐる情景(名古屋市中央紹介所少年部を写す)」が紹介され、陶磁器の作成方法と出荷の場面が紹介されている。③のシナリオも、瀬戸地方の産業と公立事業による、少年職業紹介事業の二点の紹介にあったことがわかる。このように①~③のシナリオ案は、地域特産品と職業紹介所の諸機能─ラジオ利用、内職部、労務需給調節、少年職業紹介事業をあわせて紹介するものであった。これらの映画シナリオ案は、地域産業との関係から、公立事業の当時の機能と重要性を紹介し、その宣伝と求職者の利用を促す目的で企図された記録映画であったことがわかる。4.劇映画シナリオ案の検討①─「琵琶講談 苦難の成果」続いて劇映画シナリオ案二点を検討したい。まず、④松村義太郎作・竹中聖水誦「琵琶講談 苦難の成果」(大阪市立中央職業紹介所 俸給生活者紹介部内 信交会。作成年月日不明。糸井文庫二一一─一四所蔵)である。全一七頁のガリ版刷りであるが、ペン書きの修正が入っている。浪曲のセリフ、登場人物のセリフ、そして筋書の説明という三種類の文で構成されているのが特徴である。

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