日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第51巻
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( 3 )【図2】『作業態様と所要性能』奥付記載奥付【図2】には、職業紹介事業の宣伝などを担当していた財団法人職業協会の須坂分署が刊行、印刷者は須坂町横町の佐藤傳作、印刷所は同町秀文同堂佐藤印刷所とある。本冊子は筆者が長野県内の古書店より購入したものであり、経年劣化及び掲載写真、印字体、内容から、当時の史料と判断した。以下では、本冊子の目的と時代背景を踏まえたうえでその内容を紹介し、史料の性格を明らかにする。史料中には今日不適切と思われる表現も散見されるが、当時の実情を示す歴史史料としてそのままにし、引用中旧字は原則新字に直した。2.冊子作成の背景本冊子は全七〇頁、「序」に続き「目次」があり、「作業事情説明に就て」「機械及器具工場」「車両工場」「製鋼工場」「飛行機製作工場」「生糸製造工場」「綿糸紡績工場」「人造絹糸製造工場」「織布工場及瓦斯糸製造工場」「製麻工場」「絹屑紡績工場」「運輸業」「通勤又は店舗職工」「一般知能に依る学校職業選択基準表」「聴力に依る可能職業一覧表」「視力に依る可能職業一覧表」「身体的障害に対する不適職業一覧表」「精神的障害に対する不適職業一覧表」の各項目が並ぶ。刊行目的は「序」によると、日中戦争後の「労務動員の計画に伴ひ新規労働力の重要給源たる小学校卒業者の取扱に関して」、産業と適当作業の認定に際して学校と職業紹介所の協力指導と、職業の諸事情及び作業の態様が「詳ならざるを遺憾となす所」にあるという。そして現時点で「趨勢、公布、需給関係等」と「職業の解説」をするものがあるが、「解説の程迄徹底したるものでも無い」ことから、本冊子では、小学校児童への職業指導に関して、第一に「一定の職業は男女の何れに適するか」、第二に「職業に従事するに適した年齢」、第三に「身体的特徴」、第四に「精神特徴」(主に知能・教育程度)、第五に「作業条件」(温度湿度、労働時間等)、第六に「修業所要年月と費用」、第七に「待遇の問題」(初任給、昇給)、第八に「職業の価値」について「少くとも之を調査し列挙」し、「不取敢昭和十五年三月の小学校卒業者の職業指導と職業紹介」に「幾等かでも役に立たせると云ふ急々のために」解説することとしたという(注9)のである。ここで指摘された小学校と職紹の関係は、一九二〇年代以降、職紹が地域社会に浸透するために既に構築されていた。まず、一九二七年の文部省訓令第二〇号「児童生徒ノ個性尊重及職業指導ニ関スル件」では学校と職紹の連携協力が強調され、職業指導の導入が明示されている((注(注。その後、一九三〇年代には失業と転職、進学熱に対する青少年労働力の配分と定着を担う制度として重要視され、日中戦争後の一九三八年一〇月厚生省・文部省訓令第一号「小学校卒業者ノ職業指導ニ関スル件」では、小学校卒業者の職業指導に職紹が協力してこれに当ること、職紹は卒業期の適職相談、就職斡旋及び就職後の輔導に職紹が学校の協力を得て当たることが要点として指摘され、緊密な関係が求められていた((注(注。そしてこの時期は、一九三九年の「第一次労務動員計画」に対応した需給計画の実施、計画充足のための小学校卒業生の職業紹介と女子労働の推奨、そして厚生大臣が国民登録の要申告者から適用する徴用(一九三九年七月発布、施行「徴用令」にもとづく)が実施された((注(注。これに応じて、一九三九年九月三〇日に職発第六八二号「小学校卒業者ノ職業紹介ニ関スル件通牒」の中で「小学校卒業者職業紹介暫定要綱」が示され、職紹における労務動員関係事業の求人申込の一括処理が定められた((注(注。同年一〇月一九日には職発第七二九号「小学校卒業者ノ職業指導ニ関スル件」が通牒され、道府県の職業主務と学務課に職業指導を担任する職員を定め配置すること、加えて労務動員計画の趣旨、必要な時局産業の教科目の教授の際に於ける教育指導、職業相談票の交付、就職後の輔導の徹底も企図された((注(注。注目すべきは、一九四〇年の「第二次労務動員計画」施行に
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