日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第51巻
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( 7 )立業の女子労働として、「乾燥工・精錬工・結束工・荷造工」が唯一男子に限定された全身労働として記載され、最後に「製織」として「準備工」「織機工」「仕上検査工」が女子立業で視力を重視する作業として記載されている((注(注。「絹屑紡績工場」では、「絹屑」の概要と、綿布に「富士絹」「鐘絹」「日絹」など製造工場会社名が付されていることが説明されている。作業工程は「製綿科」「製糸科」に分類として示されているが、ほぼ「綿糸紡績」と同一作業であることから、特異な作業である「製綿科」の作業と「製糸科」の前紡の「円展作業」だけが説明されている。職名は、「腐化作業」が体力のいる全身作業で立業、男子労働であるほか、「精錬工」も握力と全身労働で男子または女子労働であるほか、「乾燥工」「大切綿工」「小切綿工」、「円型工」「排綿工」「円展工」が注意力の必要な手を使う立業で女子労働であることが示されている。注目すべきは、工程を示した写真が「鐘淵紡績株式会社丸子工場(綛掛工)」、「大日本紡績株式会社一宮工場」の「コーマー工(高級組糸を造る)」と同西大垣工場の「仕上工(括束)」の三枚掲載されており、女子従業員の労働風景が垣間見られる点である((注(注。須坂の基幹産業であった製糸紡績業と関連した工場であるがゆえ、資料も豊富に存在したのであろう。総じてこれらの項目は須坂の基幹作業であった製糸紡績業とかかわりが深く、職業紹介数も最多だったことから、概要の詳述と写真数が多いのが特徴である。とはいえ、表中の項目が異なるほか叙述が不統一であり、業種の説明には「である」「です」が混在した部分がある。異なる著作や説明書等から引用したためか、あるいは執筆担当が分担されたため、または校正作業に費やす余力がない繁忙下での作成だったと考えられる。6.職業の説明③―その他最後に、その他の職業を見る。まず、「運輸業」は、鉄道、電鉄、自動車などの各部門で異なるほか、「小学校卒業者の従来最も多く志望し就業せるもの」として「航空関係の一部」が選び取られている。ただし職名は「自動車運転手」「自動車車掌」「機関手」「機関」「助手」「操縦士」「航空士」「機関士」が紹介されており、航空関係のみの記載ではない。航空関係に注意が向けられているのは、前述のように紹介先に航空機工場が多いことと関係すると考えられる。所要性能は「自動車運転手」から注意力、視覚、反応、聴力、耐久力など、車掌は健康、常識、親切、言語明瞭、容姿など、「機関手」「機関助手」は注意力、沈着、洞察、判断力などが記されている。「操縦士」は捜査の手順まで記されており、これらの多くは基本的に全身仕様・座業・男子向けの職業である((注(注。「通勤又ハ店舗職工」は説明がなく、「鍍金業」「木型製造業」「紙函製造業」「印判業」「七宝職」「和洋家具職」「クリーニング業」「製靴業」「印刷業」「製本業」「看板装飾業」「レンズ業」「菓子製造業」「洋服業」「玩具製造業」「写真業」「理髪業」であり、それぞれ一行程度の作業状態の解説の他、所要性能、所要体部、従業体位が記されており、備考として男子・女子、疾病や身体的特質について書かれている((注(注。他の業種との説明に比して説明は簡略であり、一般的な紹介業種についての必要最低限の記載と言える。7.職業選択と個人の資質本冊子には、以上みてきた職業の紹介の他に、職業と個人の資質、すなわち「適性」が、「一般知能に依る学校職業選択基準表」「聴力に依る可能職業一覧表」「視力に依る可能職業一覧表」「身体的障害に対する不適職業一覧表」「精神的障害に対する不適職業一覧表」によって示されている。「一般知能に依る学校職業選択基準表」は、知能指数に応じて知能段階が①「最上知能」(131以上)、②「上知能」(118〜130)、③「普通知能上」(108〜117)、④「普通知能」(93〜107)、⑤「普通知能下」(83〜92)、⑥「下知能」(71〜82)、⑦「最下知能」(70以下)と分類されている。そのうえで、①は大学での優秀成績者、②は大学専門学校程度、③は中等学校・専門学校修了程度、④は高等小学校・中等諸学校修了程度、⑤は尋常小学校修了程度、⑥は尋常四年程度、⑦は尋常三年程度以下と「教育程度」が目安とされている。そしてそれぞれに応じた職業例として、①編集者、法律家、教師(大学)、技師、外交官、宗教家、統計家、幹部社員(大会社)、会計士、勅任行政官、陸海軍将官、教師(専門学校)、②記者(新聞雑誌)、医者、教師(中等学校)、実業家(大商人、銀行家)、秘書役、行政官、司法官、支配人、工場長、設計家、仕入掛、会社事業家、歯科医、通信員、外交員(保険)、宗教家、③教師(小学校)、速記者、会社事務員、銀行事務

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