日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第51巻
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─ 2 ─通のパターン(後続する名詞句から「外へ」出る)を把握することができる。DDLの授業を受けた学習者は「たくさんの英文を一気に見られる」,「一度に多くの文章を比較できる」,「初心者にもわかりやすい」,「英語について学びやすい」,「効率よく学習できる」,「例文が身につく」,「簡単で見やすい」,「文法の考え方を学習できる」,「文法を違う形で学ぶことができる」など,DDLに対して肯定的な感想を述べている。このように,DDLでは,創始者のTim Johnsが言及しているように,学習者自身が「言葉の探偵(language detective)」となって,コーパスから「自力で様々な言語の傾向性や法則を発見していく」(Johns, 1997: 101)2)活動を行う。現在,日本人大学生の英語力の平均は英検3級程度,または,Common European Framework of Reference for Languages(CEFR)のA1かA2レベルであるといわれ(根岸,2009; 文部科学省,2015; 南風原,2017)3),4),5),現状として多くの大学は,「学び直し」のためのリメディアル教育を導入している。リメディアルな指導が必要な学生は,教員が一斉形式で教える教師中心型の授業に馴染まなかったというケースが多い(酒井,2013)6)。そのような中,本研究グループは,DDLは,大学一般英語授業において,中学・高校で経験したことのない「新鮮な学習方法」であり,アクティブ・ラーニングの要素である能動的学習,学生参加型学習,協同学習,問題解決・探求学習を可能にするものであると考え,2000年代初めより,語彙や文法の教授法のひとつとして,DDLの要素を英語指導に加えることを提案し,実践を行ってきた(例えば,中條,2016;中條,2017)7),8)。DDLの教育効果はメタ分析を行った最近の研究によって実証されてきており(Cobb & Boulton, 2015; Mizumoto & Chujo, 2015; Boulton & Cobb, 2017)9),10),11),学習者の肯定的評価も継続して報告されている(Mizumoto, Chujo, & Yokota, 2015; Chujo, Kobayashi, Mizumoto, & Oghigian, 2016; Mizumoto & Chujo, 2016)12),13),14)。このように効果的で評価も高いDDLであるが,英語授業にDDLを取り入れるには,英語学習者自らがコーパスを検索し,ことばの規則を発見するという学習過程をたどるため,学習者にとって適切なレベルの教育用コーパスと簡便な検索ツールが必要となる(Flowerdew, 2012)15)。上述のように,日本人英語学習者の多くはCEFRのA1かA2レベルに属することから,SCoREプロジェクトでは,英語初級レベル学習者を主な対象とするコーパスと検索ツールであるThe Sentence Corpus of Remedial English(SCoRE)を開発・公開している(http://www.score-corpus.org/)。図2にSCoREの英語版トップページを示す。SCoREプロジェクトでは,DDL学習支援ツールの利便性の強化とSCoREコーパスの質的・量的増強をめざして継続して開発が行われてきた。現在,SCoREツールはパターンブラウザ,ダウンロード,コンコーダンス,適語補充問題の4つのツールから構成される。SCoREコーパスに含まれる例文は,DDLのためのパラレルコーパスとして教育的基準に配慮しつつ,英語教育の専門家により開発されてきた。英語例文は,英語母語話者が学習目標とする文法項目ごとにソースコーパスの抽出結果にもとづいて,簡潔かつ自然なものを作成し,日本人英語教師が英文を検討しながら慎重に日本語対訳を付記したものである。2015年の第1次開発で3,142文(中條・若松・石井・宇佐美・横田・オヒガン・西垣,2015)16),2016年の第2次開発で5,863文(中條・若松・オヒガン・ジナング・赤瀬川・内山・アントニ・西垣,2016)17),2017年の第3次開発で10,113文に拡大されてきた(中條・若松・濱田・内山・赤瀬川・ジョンソン・西垣,2017)18)。現在,第4次開発を完了し,「関係詞」,「仮定法」など22の文法項目に対し10,459文の例文が収録されている。本稿の目的は,教育用例文コーパスSCoREの第4次開発の概要を報告することである。まず,第2節で第4次開発の主眼であった英語例文の全面見直しと改訂の内容,および,次回収録用の14の主題分野の例文作成について報告する。第3節で,適語補充問題の「ログ記録機能」の追加,最後に第4節で新たに開発されたタブレット端末用の「m-SCoRE」を紹介する。第5節で今後の研究の方向性について述べる。図1 前置詞out ofの検索結果

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