日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第51巻
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─ 28 ─European Framework of Reference for Languages(CEFR)のA1かA2レベル(英語初級レベル,リメディアル・レベル)に該当することから(Negishi, 2012;南風原,2017)5),6),本研究グループでは,英語初級レベル学習者を主たる対象としたDDLを効果的に行うために,フリーアクセスの教育用例文コーパスSCoREを開発・公開した(http://www.score-corpus.org/)。2012年に開始したSCoREプロジェクトは,現在,第4次開発が完了し,「関係詞」「仮定法」など22の文法項目に対し10,459の例文(101,521語)が収録されている。各例文については,英語母語話者が簡潔かつ自然な英文を作成し,日本人英語教師が日本語対訳を付記している。このようにSCoREはDDLのための教育用パラレルコーパスに必要な教育的基準と考えられる,適切さ(appropriateness),ユーザビリティ(usability),著作権の公正使用(fair use for copyright issues)に配慮しながら英語教育の専門家により開発されてきた。暫定版のSCoREが利用できるようになった2015年から日本大学生産工学部と茨城高専ではSCoREを大学一般英語授業に活用してDDL教育実践を行ってきた(中條・若松・オヒガン・ジナング・赤瀬川・内山・アントニ・西垣,2016)7)。SCoREは例文が英語と日本語で併記されるバイリンガルコーパスである。大学初級レベル英語学習者にとっては英語のみのモノリンガルコーパスであれば難しく感じられるところを,バイリンガルコーパスであれば日本語訳が助けとなって,学習者の英語に対する苦手意識も薄まり,実際の学習効果も上がっている。事前・事後テストによる指導の前後の得点上昇は現在まで毎年継続して「効果量大」という結果が得られ,SCoREを利用したDDLによる文法の指導はリメディアル教育のひとつの指導法として非常に有効であることが明らかになっている(中條・若松・濱田・内山・赤瀬川・ジョンソン・西垣,2017;中條・若松・濱田・西垣・ジョンソン,2018)8),9)。さらに,学習者にとってコーパスを使った学習活動自体が「楽しい」「面白い」「新鮮である」「集中できる」などと感じられ,能動的な学習を促すという学習者からのフィードバックを継続して得られてきた(中條・水本・西垣・内堀・横田・オヒガン,2016)10)。2017年のSCoRE第2次開発版を使用した実践では,DDL文法学習で使用している教育用例文コーパスSCoREが学習者にとって適切なものであったかという点を検証した。中條・若松(2015)11)で作成した6段階評価の質問紙を使用して,36名のCEFR A1レベルに該当する大学生の参加者が評定した結果をTable1に再掲する。英文のレベル,長さ,構造,意味の分かりやすさに関して平均値が5.0を超える高い評価を得た。したがって,学習者がSCoREの英文と日本文は,英文法の学習に使いやすいと考えていることが確認できた。このように学習者の「主観的」な高い評価が得られているものの,一方で,他のコーパスの例文に対する評価とSCoREとがどれほど異なるのかは不明であった。そこで次の段階として,SCoREが他のコーパスと比較して,英語授業にDDLを取り入れる上で適切な英文を収録しているかを「客観的」に評価する調査を行う必要があった。本研究の目的は,例文の難しさ,長さ,自然さ,構造の分かりやすさ,意味の分かりやすさなど7項目の英文難易度項目が,例文を通した文法学習のしやすさにどのような影響を与えるのかについて,SCoREを含む4種類のコーパスに収録されている英文を比較することである。第2節で研究の方法,第3節で結果と解釈,第4節で今後の研究の方向性について述べる。2.研究の方法本節では,英文難易度評価を行うために必要な質問紙の作成方法を中心に述べる。Table1 Student Evaluation of SCoRE Sentences項目平均値標準偏差英文のレベルはちょうどよい4.91.1英文の長さはちょうどよい5.11.1英文に使われている単語のレベルはちょうどよい5.11.0英文は自然な感じでちょうどよい4.71.2英文の構造は簡潔で複雑でない5.00.8英文の意味はわかりやすい5.01.0見たい英文法が的確にみられる5.21.0日本語訳は英文理解の助けになる5.31.1
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