日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第51巻
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─ 22 ─て,命令文に続く接続詞orの用法について取り組んでもらった。この文法項目を選んだのは,orという形と「そうしなければ」や「さもなければ」という意味の対応が明白に思われたからである。授業では,SCoREにアクセスし,命令文に後続する接続詞orが含まれる初級レベルの例文を表示させ,例文に共通して観察される特徴をできるだけ多く挙げるよう指示した。また,関係代名詞,仮定法,命令形+orの3項目それぞれについて,SCoREの「適語補充問題」に取り組ませた。使用した配付プリントはすべて回収し,記入された内容について考察した。なお,どの文法項目についてどのような気づきが得られるのかに注目したかったため,授業では教師側からの解答は明示しなかった。そのため,学習者が受けたインプットは,配付プリントと学習者自身がSCoREを操作して得た言語資料のみであった。また,解答の際に学習者同士が相互に相談することは許可したものの,机の配置からペアワークをすることは困難であり,個人でタスクに取り組む学習者が半数以上であった。また,事後テスト実施の直後に正答を示し,再度,教師の側から,関係代名詞whoseの用法と仮定法の用法について明示的な指導を行った。事後テストの結果と学習者が記入したプリントを考察した結果を表7に示す。先述の通り,事前テストでは関係代名詞と仮定法過去の正答率は0%であったが,事後テストではそれぞれ33.3%および53.3%の正答率となった。正答者数が増えているため,SCoREを利用した学習の効果はあったと判断はできるものの,授業実践の際に取り組ませたSCoREの「適語補充問題」ではほとんどの学習者が50~60%を正答していたことを考慮すると,教師が期待していたよりは低い正答率であった。次に,参加者から回収した配布プリントへの書き込みを考察してみると,興味深いことに,事後テストでの不正答者は,「whoseの後に名詞が後続する」や「whoseの右側には主語と動詞が来ている」など,形についてのみのコメントを挙げていた。他方,正答者の多くは,「~の人という意味になる」や,whoseの右側から左側に矢印を引いたうえで,「左が右を説明している」など,規則的な形に対応する意味についての気づきを記入しているという傾向があった。本実践は小規模のものであり,言語形式の規則に気づくことのみではDDLの効果は低いと判断することはできない。しかし,少なくとも,DDLタスクの指示文に言語の意味にも注目させるような文言を使用することが望ましいということを示唆していると言えるだろう。また,教師の側から文法事項に関する解説を行う際に,提示している文に共通する意味についても,明示的なフィードバックを与えるなどの工夫が有用であると言える。4.まとめ2004年から14年間継続してきたDDL実践では常に学習者から前向きで肯定的なフィードバックが得られてきた。教育用例文コーパスSCoREは,現在,第4次開発が完了している。この結果,初級レベルの学習者を対象としたSCoREを基盤とする「DDL学習指導支援サイト」はさらに進化し,機能が拡張され,多様な教育現場,教育環境で活用されている。また,スマートフォンでSCoREを使いたいという多くの大学生学習者の要望に応え,タブレット端末やスマートフォン向けのm-SCoREも利用可能となっている。今後は普通教室での一般英語授業で,学習者が日常的に携帯することの多いスマートフォンやタブレット端末を使用したDDL実践も導入していきたい。パソコン設備の有無に依存することのないDDL実践が可能になれば,DDLが日常的な学習活動として定着することも期待できる。ICTの普及が進む一方,現在も様々な事情により,教育現場ではその活用に制限がかかっている場合が多い。そこで,どのような授業形態でもDDLを導入できるように,コンコーダンスラインを印刷して発見学習を行うペーパー版DDLの実績を積み重ねていく必要もある。表7 事前・事後テストの結果と意味についての気づき関係代名詞whose仮定法過去命令文+or事前事後事前事後事前事後正答率0% (0/15)33% (5/15)0% (0/15)53% (8/15)n. a.50% (2/4)意味について気づきを記した正答者数n. a.4n. a.5n. a.2意味について気づきを記した学習者数n. a.4n. a.8n. a.2注.SCoRE教材バンクの「命令文+or」に対応する事前テストの項目は「命令文+and」であったが,本実践ではandを扱わなかったため,事前テストの欄には記載なしとした。

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