日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第51巻
16/60

─ 14 ─方法に加える必要がある。本稿で報告するデータ駆動型学習(data-driven learning: DDL)は,「自分で英語の語句や文法の規則を発見する学習」であり(Aston, 2001)3),アクティブ・ラーニング型の指導法の1つとして(赤野,2016)4),能動的学習,学習者参加型学習,協同学習,問題解決型学習,探求的学習を可能にする。DDLによる英語学習の効果については,多数の先行研究の結果を統合するメタ分析を行った研究論文が公開され始め,その効果が極めて高いことが明らかにされている(Mizumoto & Chujo, 2015; Boulton & Cobb, 2017)5),6)。日本大学生産工学部におけるDDLの実践授業は2004年に開始され,14年間継続して行われてきた。英語授業にDDLを取り入れるためには,学習者にとって適切なレベルのコーパスとユーザー・フレンドリーな検索ツールが必要となる。2017年度の実践に使用したコーパスは,教育用例文コーパスThe Sentence Corpus of Remedial English(SCoRE)(http://www.score-corpus.org/)である。SCoREは初級レベルの英語学習者に適した難易度の教育用コーパスと操作のしやすい検索ツールを備え,「パターンブラウザ」,「コンコーダンス」,「適語補充問題」,「ダウンロード」という4種の機能が搭載されている。利用者登録などの必要がなく,ウェブ・ブラウザ上で利用できるシンプルなグラフィック・ユーザー・インターフェースとなっている。SCoREの詳細については,Chujo, Oghigian, & Akasegawa(2015)7)および(中條・若松・濱田・内山・赤瀬川・ジョンソン・西垣,2017)8)を参照されたい。英語初級レベルの学習者を対象としたSCoREは様々な教育現場で活用され始めている。英語の授業で,学習者が直接コーパスにアクセスして検索するハンズオンのDDL以外に,日本大学や茨城工業高等専門学校では,語法・文法指導のためのコーパス準拠教材の教材バンクとして,プリント教材や小テスト作成にSCoREが利用されている。千葉大学,東京外国語大学,関西大学では,英語学・英語教育学関連の講義等でSCoREが紹介されている。千葉大学教育学部附属中学校では,中学生がタブレットでSCoREを使ってコーパスを検索している(横田,2017)9)。英語教員向けやALT(Assistant Language Teacher)向けのサイトでリンクを貼りたいという要望も寄せられている。英語学習用TED対応字幕再生ウェブサイトTalkiesではTalkies on SCoRE(http://www.mintap.com/talkies/talkies.html?2017score)が開発・公開され,SCoREの例文の音声学習も可能になっている。中学校や小学校英語教育用の教材を作成する際にも利用されている(西垣・中條・神谷・小山・横田,2015;西垣・中條・神谷・小山・安部・物井・横田,2017)10),11)。本年度,日本大学生産工学部ではリメディアル・レベルの大学生265名が,1年を通じて中学・高校段階の基礎英文法項目を学び直した。学習者は各自のノートパソコンを使ってDDLに取り組んだ。日本大学生産工学部で実践しているDDLの授業は,学習者がパソコンを使って,コーパスに直接アクセスして目的の文法項目に対する用例を検索し,コンコーダンスと呼ばれる検索結果を見て発見学習を行う,いわゆる“hard version” DDLである(Bernardini, 2004: 32; Gabrielatos, 2005: 9; Boulton, 2009: 97)12),13),14)。一方,教育現場ではICTの活用に制限があるため,教師がコーパスを利用して,学習用タスクとコンコーダンスラインを載せたプリント教材を作成して利用することもできる。学習者がプリント教材を使って英語を学習するというペーパー版のDDLは“soft version”DDLと呼ばれる。印刷したコンコーダンスラインを用いることの利点は,教師が学習者の実態に合わせて例文を選定したり,例文を提示する順番を変更したり,英文や単語の難易度を調整するなど,教材を自由に加工して提示できる点である(西垣他,2017)15)。今後は,ペーパー版DDLとして,コーパス準拠のプリント教材,補助教材,投げ込み教材,自習教材など,柔軟な扱いの“soft version”DDLを推進することも必要である。本稿では,第2節で日本大学生産工学部における,SCoREを利用したコンピュータ版のDDL実践の実施手順と成果について述べる。次いで,第3節で茨城高専においてSCoREを利用したペーパー版DDLを含む,3種類の異なるタイプのDDL実践を紹介する。第4節で,DDLを用いた実践研究の今後の方向性について述べる。2.日本大学生産工学部におけるDDL指導実践2.1 実施手順SCoREを使ったDDLの実践は,情報処理演習室において,学習者が各自のノートパソコンを使用して行われた。表1に1年間の実践で指導した文法項目を示す。授業は年間30週行われた。日本大学生産工学部では2017年度より4学期制が導入され,英語科目の場合,週2回の英語授業の1回目の授業を英語ネイティブ・スピーカー教員が,2回目(表1のDDL指導実践)を日本人教員が担当した。本稿で報告する実践は,第4学期(Q4)に指導した,wh- to do,前置詞,接続詞,副詞,代名詞(表1の網掛け部分)など,高校までに習得すべき基礎文法項目の指導内容とDDLの実践によって得られた教育効果である。参加者はTOEIC Bridge®のスコアが平均116点(CEFR A1)レベルの大学1年生46名(女子は7名)である。第4学期のDDL指導のポイントは,SCoREの

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る