日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第57巻第2号
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1.はじめに2.研究の背景3.実験の目的4.実験で使用する風鈴─ 2 ─日本の伝統的な住宅では,木や紙が使われているため,内と外の音が行き来しやすく,共存している。しかし,現代の住宅は,コンクリートなどの厚い壁で内と外とが隔てられているため,建物の中の空間は外からの音は入らず,密閉性の高い空間となっている。さらに,採光や通風は照明やエアコンなどによって行われ,カーテンや窓を開けて季節を感じることも少なくなっている。その影響は風鈴も受けており,「風鈴の音」は騒音の一つとされ,吊るすことを控える人も少なくない。近年では,室内で飾るような卓上の風鈴も販売され,風鈴を音具あるいは楽器として室内で楽しむようになってきており,現代のすまい方に合わせて,風鈴の楽しみ方も変化しつつある。本研究は,現代でも「夏の風物詩」と捉え,季節を感じる人が多い「風鈴の音」に対する日本人の感性を分析するものである。本報では,「風鈴の音」の「響き」と「うなり」について,心理的および物理的評価を用いて分析したので,その結果を報告する。近年,風鈴の音に関する研究が,物理的検討だけでなく,心理的な研究も増えている。森田らは,有限要素法の固有振動解析とレーザードップラ振動計を用いて振動解析を行い,南部風鈴における「うなり」の発音性状について分析している1)。土田は数多くの風鈴を用いて,その音響特性と心理的評価との関係について検討している2),3)。著者らも,数年前から,風鈴の物理的な音響分析だけでなく,心理的評価研究を行っている4)−6)。前報6)では,グーグルフォームとMP3音源を用いて行った被験者と非対面のアンケート調査(以下,非対面実験と呼ぶ)とWAV音源を用いて行った被験者と対面のアンケート調査(以下,対面実験と呼ぶ)から求めた因子分析結果から,風鈴の音に対する表現語は大きく「美・叙情的因子」,「日常・快適因子」,「賑やかさ・明るさ因子」,「材料・素材に関する因子」の4つに分類できることを示した。また,自由記述結果で出現頻度が多かった「涼しい」という表現語は,SD評価アンケート項目「暖かい−冷たい」の軸上の「冷たい」寄りに位置すると考え,そして,「暖かい−冷たい」はいずれも「材料・素材に関する因子」に含まれていることにより,風鈴の音をきくことで,風を感じ,涼しさを感じているだけでなく,氷がガラスや陶磁器などの器に当たってカランとなるような音など,暑い夏に冷たい飲み物を飲むことをイメージして涼しさを感じている可能性もあることを考察した。前報6)のアンケート調査における自由記述結果において「響き」という語句がいくつかの風鈴に出現する。この「響き」が「風鈴の音」の何を指すのか定かではない。おそらく「音の余韻」あるいは物理的には音の「減衰時間の長さ」のことを表しているものと考えられるが,建築空間の「響き」,すなわち,「残響」のこと表している可能性もある。また,多くの「風鈴の音」には音の「減衰時間の長さ」に大きく寄与する「うなり」が生じていることはあまり知られていない。そのため,アンケート調査における自由記述においても「うなり」という言葉はほとんど出てこない。そこで,本報では「風鈴の音」の「響き」と「うなり」の関係を心理的および物理的評価実験から分析する。前報6)によれば,ひとつの風鈴で複数個の音が鳴る複数音の風鈴の音は楽器やドアベルなどの印象が強く,風鈴の印象はあまり感じられない。本報では,単音の風鈴に絞って印象評価実験および音響解析を行う。風鈴の種類と素材をTable 1に示す。実験に使用した風鈴は計10種類であり,それぞれ形状,素材の異なるものを使用する。S−1およびS−2はガラスの風鈴,S−3およびS−4は陶磁器の風鈴,S −5からS−10は金属の風鈴であり,S−5からS−7は鉄製で,S−8が真鍮製,S−9およびS−10は砂張(青銅)製である。南部風鈴(S−6)および南部風鈴(S−7)はいずれも梵鐘形状だが,南部風鈴(S−5)は形状が異なる。また,南部風鈴(S−7)は他の2つの南部風鈴より大きい。小田原風鈴(S−9)および(S −10)は大きさ,形状いずれも異なり,後者の方が大きく,表面に凹凸がない。

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