日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第57巻第2号
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8.おわりに7.心理的および物理的評価の比較─ 10 ─「うなり」の有無を判断するために,近接するピーク周波数の差を求める注)。心理的評価によれば,風鈴の印象は大きくガラスの風鈴,陶磁器の風鈴,金属の風鈴で異なるため,音響解析においては非対面実験で使用した江戸風鈴(S−1),有田焼風鈴(S −3)および南部風鈴(S−7)の3種類の風鈴に対して行う。なお,本報では,「うなり」を判断するために,「減衰時間」を音が立ち上がってから減衰して暗騒音とほぼ同じくらいのエネルギーになるまでに要する時間の長さとしている。6.2.1 江戸風鈴(S-1)Fig. 3およびFig. 6によれば,江戸風鈴(S−1)の減衰時間は1.0秒以下と短く,0.3秒くらいでほぼ暗騒音と同じになる。また,基本周波数,約1.8倍音,約2.5倍音,約3.2倍音および約4.3倍音に大きなピークがある。基本周波数(a)は,2548.2Hzであり,時系列波形には基本周波数の「うなり」は現れていない。6.2.2 有田焼風鈴(S-3)Fig. 4およびFig. 7によれば,有田焼風鈴(S−3)の減衰時間はやはり1.0秒以下と短いが,「うなり」が生じているため,江戸風鈴(S−1)の倍の長さ0.6秒くらいでほぼ暗騒音と同じになる。また,基本周波数および約2.7倍音に大きなピークがある。基本周波数(a)と(b)において8.3Hzの周波数差が見られ,時系列波形にも長さ0.12秒(1秒間に8回強)くらいの「うなり」が3回(見方によって4回)ほど確認できる。6.2.3 南部風鈴(S-7)Fig. 5およびFig. 8によれば,南部風鈴(S−7)の減衰時間は長く,基本周波数および約2.7倍音に大きなピークがある。基本周波数(a)と(b)において39.4Hzの周波数差がみられる。時系列波形においても長さ0.025秒(1秒間にほぼ40回)の「うなり」が現れている。6.3 まとめ周波数特性によれば,江戸風鈴(S−1)には「うなり」がなく,有田焼風鈴(S−3)および南部風鈴(S−7)においては基本周波数に「うなり」がある。また,減衰時間は,江戸風鈴(S−1)および有田焼風鈴(S−3)が1秒以下と短いが,後者には「うなり」が生じているために前者より減衰時間がほぼ倍の長さになっている。南部風鈴(S−7)は金属製なので,減衰時間は長いが「うなり」も生じているので,さらに長くなっている。これらより,江戸風鈴(S−1)は「うなり」がなく減衰時間の短い音,有田焼風鈴(S−3)は基本周波数に「うなり」があり減衰時間は短いが江戸風鈴(S−1)のほぼ倍の長さがある音,南部風鈴(S−7)は基本周波数に「うなり」があり減衰時間の長い音といえる。印象評価および音響解析によれば,ガラスの風鈴,陶磁器の風鈴,金属の風鈴で特徴が異なる。心理的評価において,風鈴の音を評価するうえで「響き」が重要な要素のひとつであり,特に,金属の風鈴において「響きが綺麗」のような回答がみられる。音響解析によれば,金属の風鈴の音は減衰時間が長く「うなり」があるため,これらの特徴から「響き」を感じていることがわかる。また,陶磁器の風鈴においては,「響く」「響かない」の回答が分かれる。音響解析によれば,減衰時間は短いが「うなり」があるため,多少音の余韻を感じ,「うなり」のないガラスの風鈴よりも「響く」ように感じ好印象であると考えられる。ただし,既報4)によれば,江戸風鈴(ガラス)および南部風鈴(鉄)では「うなり」が生じ,有田焼風鈴(陶磁器)では「うなり」がなく,今回の風鈴とは逆になっている。江戸風鈴(ガラス)や有田焼風鈴(陶磁器)には製作上南部風鈴のように凹凸のある形状のものは少なく,厚さを均一に製作しやすく「うなり」が生じない風鈴も製作できる。なお,既報4)の印象評価では,「うなり」が生じた江戸風鈴(ガラス)は,それが生じてない有田焼風鈴(陶磁器)よりも好印象である。これらの結果からも風鈴の音で生じる「うなり」は好印象につながることがわかる。因子分析において,風鈴の音を表す24項目の表現語は,大きく「美・叙情的因子」「日常・快適因子」「体感・重量感に関する因子」「賑やかさ・明るさ因子」の4因子に分けることができる。印象評価実験において,風鈴の音を「響き」という言葉を使って評価している人が多く,物理的実験において,「響く」との回答の多い風鈴の音は「うなり」があり減衰時間が長いことが分かった。また,それは印象評価において「美・叙情的因子」に属し,

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