日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第56巻第1号
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甲乙甲乙1.1尺と1.5尺の双盤の詳細図をFig. 3に示す。これらによれば,鉦2枚における上部表面部分の厚さ(IおよびJ)の差が1.1尺の場合は1mm以上ある。後日,末永で行った聞き取り調査においても,双盤の調律は2枚の音の高さを変えるために厚さを変えているとの回答を得た。1.1尺および1.5尺いずれも上部表面部分は中央(I)が一番厚く,端(J)にいくにしたがって,厚さは薄くなっている。また,側面は上部に近い方(F)が薄く,離れるにしたがって(G)厚くなる。現在,作られている双盤の音響特性を調べるために,双盤念仏用の1.1尺と遠州大念仏用の1.5尺の双盤を製作した。いずれも大阪にある銅合金鳴り物鋳物会社である末永8)にお願いした。末永は全国から双盤の注文を受けているので,まず,特に何もアドバイスせずに,末永が考えている「尺一の双盤を作ってほしい。」と発注した。さらに,半年後に尺五の双盤を発注した。その際,2枚の鉦をすべて同じサイズで作るようにお願いした。また,1.5尺の場合は2枚を同型に製作してほしいと注文したので,それらの差は0.5mm以内に収まっている。4.1 測定および解析方法測定はいずれも無響室で行なった。各鉦の表面中央をバチ(1.1尺は木製,1.5尺は布製)で叩き,オーバーロードをしないように録音する。録音にはPCMレコーダ(サンプリング周波数48kHz,量子化24bit)を用いた。音響解析は各鉦の録音した音の波形データの立ち上がりから音がほぼ消えてなくなるまでのデジタルデータを取り込み,DFT解析を行う。末永・尺一末永・尺五1.5尺の双盤は,同じものを2枚製作してほしいMaker &SizeSyoufrequency(Hz)339.8320.1230.8226.8(Japanese Gong)Table 2 Fundamental Frequency and Pitch for Japanese GongsPitch(cent)F4-47D#4+49A#3-17A#3-47─ 5 ─JapanesePitch勝絶断金鸞鏡鸞鏡ChinesePitch夾鐘大呂夷則夷則4.2 測定結果および考察いずれも,基本周波数の音高を知りたいので,音の主成分である4倍音までの周波数特性を示す。測定した双盤の基本周波数と音高をTable 2に示す。4.2.1 1.1尺の双盤測定した双盤の周波数特性をFig. 4およびFig. 5に示す。これらによると,2枚の基本周波数(b)は甲(音が高い方)が339.8Hz(F-47セント),乙(音が低い方)が320.1Hz(D#+49セント)であり,周波数差は約20Hzでほぼ半音の差がある。そのため,2枚同時に叩くと「うなり」ではなく,2音が分離して聞こえる。ただし,十二律の盤渉(B)と双調(G)の高さではなく,いずれも断金(D#)に近い。なぜこの音高にしたのか末永に聞いたところ,「D#の音の高さが1.1尺の双盤にとって一番良い音だからだ。」という返事が返ってきた。また,いずれも基本周波数(b)より17Hz前後低い周波数にレベルが小さい(a)が存在する。下部の縁周り部分をバチで叩くと,この(a)部分のレベルが大きくなるので,側面から下部の縁周り部分の振動により発生した音と考えられるが,詳細は音響シミュレーションによる固有振動解析を行う必要があるので,今後の検討課題としたい。4.2.2 1.5尺の双盤末永の双盤の製作方法は大きさに関係なく1.1尺も1.5尺も同じ方法を用いることが判ったので,尺五の双盤は全く同じサイズの2枚鉦を製作してほしいとお願いした。測定した双盤の周波数特性をFig. 6およびFig. 7に示す。これらによると,2枚の基本周波数(b)は甲(音が高い方)が230.8Hz(A#-17セント)で,乙(音が低い方)が226.8Hz(A#-47セント)で4Hzの差がある。また,1.1尺と同様に,いずれも約218Hzにレベルが小さい(a)が存在しており,やはり縁周り部分をバチで叩くと,この(a)部分のレベルが大きくなる。4.製作した双盤の周波数特性

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