日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第56巻第1号
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甲乙甲乙大きい。二枚鉦を向かい合わせにして,二人で同時に叩く。撞木は布を細かく切って硬く束ねたり,木綿のロープを20から25cmの長さに切って束ねた手製のものを使う(Fig. 2)。3.1 測定対象の双盤について測定した双盤は,神奈川県横浜市青葉区上市ヶ尾町にある地蔵堂が所蔵している双盤と静岡県浜松市中区早出町が所蔵している双盤である。3.1.1 上市ヶ尾地蔵堂の双盤双盤鉦は1.1尺の鉦3枚である(Fig. 1)。双盤念仏はおそらく江戸時代から行われているようだが,双盤は昭和60年に新調されている7)。毎年11月30日の十夜に双盤念仏が上市ヶ尾地蔵堂内で奉納され,東福寺の僧による諷誦文供養がある。諷誦文供養の間,双盤講は二枚鉦で行われる7)。録音は2022年11月14日の練習日に行った。3.2.2 遠州大念仏(早出組)の双盤静岡県浜松市中区早出町が所有している双盤鉦は1.6尺の鉦2枚である(Fig. 2)。双盤は昭和47年に製作された。録音は2021年8月27日に行った。3.2 測定および解析方法録音にはPCMレコーダ(サンプリング周波数48kHz,量子化24bit)を用いた。各楽器の基本周波数を測定するだけなので,暗騒音に気をつけながらオーバーロードしないようにレべル調節を行い録音した。上市が尾地蔵堂の双盤の音響解析は,録音された練習中の音を聞きながら3枚の双盤を別々にならされた時の音の波形データの立ち上がりから1秒以上上市ヶ尾早出町鎌倉光明寺5)経過した部分のデジタルデータを切り取り,DFT解析を行った。また,早出町の双盤は屋外での録音で風が強かったため,風が弱くほぼ無風状態になる時をなるべく選び,また,暗騒音に気を付けながら録音した。音響解析は各鉦の録音した音の波形データの立ち上がりから音がほぼ消えてなくなるまでのデジタルデータを取り込み,DFT解析を行った。さらに各楽器の基本周波数f(Hz)を求め,A4の音を440Hzとして,f(Hz)をセント数値に変換し,各音高を西洋音楽の十二平均律で表示する。3.3 測定結果および考察測定した双盤の解析結果をTable 1に示す。また,鎌倉光明寺の双盤も参考として掲載する。各鉦の基本周波数とその音高を十二平均律,日本および中国における十二律で示している。鉦が3枚ある上市が尾の双盤は音が高い方から一番鉦(親鉦),二番鉦および三番鉦と呼ばれる。早出町および参考として載せた鎌倉光明寺の双盤は2枚であり,双盤を製作している所に従って,音が高い方を甲,低い方を乙とした。これらによると,上市が尾の二番鉦および三番鉦が盤渉(十二平均律のB)と双調(十二平均律のG)の音高で調律されており,関東の双盤念仏の元である神奈川県鎌倉光明寺の双盤と同じ音高であることがわかる。この2音は周波数比ほぼ4対5(長三度)の関係にあり協和する。一番鉦は断金(十二平均律D#)の音高で調律されており,三番鉦と周波数比ほぼ2対3(完全五度)の関係にあり,やはり協和する。おそらく演奏中,3つの鉦を同時に叩くことがよくあるため,断金の音高が選ばれたと考えられる。また,一番鉦は親鉦と呼ばれ,太鼓とともに曲OwnerSyoufrequency(Hz)302.9250.8196.5151.2146.2--(Japanese Gong)Table 1 Fundamental Frequency and Pitch for Japanese Gongs一番鉦二番鉦三番鉦Pitch(cent)D#4-46B3+27G3+4D#3-49D3-7(B)(G)─ 3 ─JapanesePitch断金盤渉双調断金壱越盤渉双調ChinesePitch大呂南呂仲呂大呂黄鐘南呂仲呂3.実際に使われている双盤の基本周波数

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