る4)。関東の双盤念仏の元である神奈川県の鎌倉光明寺では団体参詣者の供養の時に僧が二枚の双盤鉦を叩き,右が双調で調律した鉦で低い音を出し,左が盤渉で調律した鉦で高い音を出す5)。東アジアから東南アジアには,銅鑼(ゴング),梵鐘,双盤(鉦),風鈴などの金属製打楽器が多く分布している。これらは主に,青銅,真鍮(黄銅),鉄などを材料として作られており,日常生活における合図あるいは時報としてだけでなく,宗教的儀礼や舞踊における伴奏音楽など様々な用途に使用されている。これらの大きな特徴として,いずれも西洋楽器とは異なり,「うなり」を伴うものが多い。しかしながら,それらの音響的構造はほとんど研究されていない。これら「うなり」を中心とした金属打楽器の音響解析および固有振動解析を行うことによって,楽器演奏者や楽器製作者などのインタビューからだけではわからなかった客観的な音の響きや音色の変化を考察できる。著者らは,いままで日本の梵鐘の音1),2),そして,風鈴の音3)について,いくつか録音を行い,音響分析をしてきた。特に前者については,有限要素法を用いて固有振動解析も行っている。今回,日本に広く分布する双盤についても測定する機会を得た。そこで本報では,実際に使用されている2種類の双盤を測定し,音響分析を行う。さらに,1.1尺(約33cm)および1.5尺(約45cm)の双盤を実際に製作して,詳細に音響分析を行ったので,それらの結果を報告する。2.1 双盤念仏双盤は双盤念仏で使われる。双盤念仏は芸能化された声明と言われ,尺鉦とか尺三という直径一尺から一尺三寸の大きな鉦を横向きに木製の撞木(Fig. 1)で叩きながら念仏を唱えるもので,もとは二枚鉦を向かい合わせにして僧が叩き,浄土宗の儀礼として成立したものと考えられている4)。双盤念仏には僧侶が行う双盤と在俗の人の講や連中による双盤がある。いずれも基本的にお堂内で行われ,文献4)では前者を寺院双盤,後者を民間双盤としている。寺院双盤は浄土宗の法要に行う双盤で,一人が二枚鉦を向かい合わせて叩く。二枚鉦を叩くので双盤という説と,二枚の鉦が双調(十二平均律のG)と盤渉(十二平均律のB)を奏でるからという説があ─ 2 ─民間双盤は在家の人が叩くもので,双盤講・鉦講・鉦張りといって,四枚から八枚鉦,多いところでは十六枚の鉦を使用して,掛け合って南無阿弥陀仏を長く伸ばして唱える。双盤鉦は同じ向きに並べて叩く。民間の双盤は主に関東と近畿に集中している4)。2.2 遠州大念仏静岡県浜松市近辺で行われる遠州大念仏においても双盤鉦は使われる。これは主に7月13日から15日の新盆において,屋外で演奏される。堂内で行われていた双盤念仏が江戸時代後半から,屋外で行われるようになり変化していったものと思われるが,双盤念仏とは別の芸能として扱われている。使われる鉦も尺六から尺八(ただし,天保年間に作られた尺四寸五分のものがひとつ現存する6))と,とてもFig. 1 SOBAN and its Mallet for Kami-Ichigao.Fig. 2 SOBAN and its mallet for Soude-cho2.双盤について1.序論
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