まず,用いたレーザー分割素子とその適用配置について述べる。多点レーザーターゲット点火を実現するために必要なマルチレーザービームを形成するために考案したマルチプリズム素子をFig. 1(a)に示す。これは頂角が30°で先端を切り落とした形状を有するプリズムを8個,光学用の紫外線硬化接着剤を用いて図の様に側面を接着して固定することで構成した。このマルチプリズムに直径が18mm程度のレーザービームを入射させると,中央の穴部からは直進するレーザー光が,その他の部分からはそれぞれ屈折したレーザー光出力され,合計で9本のレーザー光が得られる。このレーザー光を急速圧縮膨張装置の燃焼室筒内のピストン表面と相互作用させることで多点点火を実現した。その配置をFig. 1(b)に示す。急速圧縮膨張装置はエンジンの1サイクルを模擬できる装置で,ピストンを油圧によって往復運動を行わせる。Fig. 1(b)ではその燃焼室の断面図が示されている。燃焼室の直径であるボアは10cm,右側に示されているピストンのストロークは12cmであり,圧縮比は4,図では最大圧縮時である上死点に位置している。また,左側に可視化用の窓が設置されている。この窓は燃焼に耐える厚みの石英が用いられている。Fig. 1(a)で形成したマルチビームレーザー光を,球面レンズを用いて集光すると,中央部と周りでは表面に対する焦点位置が大きく異なってしまう。そこで,入射角度が異なっても平面上への集光が可能であるfθレンズ(シグマ光機fθレンズfθ-150-1064B)を用いた。図に示す通り,可視化用石英窓を通してピストン表面近傍にレーザー光を集光している。このピストンの表面にレーザー光を集光して空気中で形成されたプラズマの画像をFig. 1(c)に示す。ピストン上に青白い発光を伴うプラズマが形成されていることがわかる。パルスレーザーとしては,フラッシュランプ励起のNd:YAGレーザーの基本波(波長1064nm)を用いた。圧縮・燃焼時の筒内の圧力変化はKistler社のQC34Dで計測し,加えて火炎成長の様子を高速度カメラでfθレンズの側方から計測した。燃料としてはノルマルヘプタン,及びサロゲートガソリンであるS5R10)を用いた。また,本実験では燃焼室上部に設置されたスパークプラグによる点火との比較も実施した。まず,高速度カメラを用いて可視化した火炎像をFig. 2に示す。高速度カメラは燃焼室全体を視野に収めることができなかったため,燃焼室中心を十字で示した。一部の可視化に留まっているが,それぞれの火炎を確認することができる。可視化領域の右側が燃焼室の中心を表している。図中9pointsと左上に記された画像が本手法による9点同時点火によって形成された火炎,1pointは中央のレーザー光だけを残し他のレーザー光を遮断して得られた火炎,Spark plugは上部のスパークプラグによる点火で形成された火炎を表している。確かに多点点火が実現されていることが確認できる。燃焼における差異を検討するために燃焼室筒内の圧力履歴をFig. 3に示す。この図の燃焼で用いたFig. 1 Experimental setup.Fig. 2 Visualized flame images of 9 points, 1 point, and spark ignition─ 36 ─2.実験方法・装置3.実験結果
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