2となる時に(Y2−Y−Fig.2では2つの波形の重複を判断しており,直接的な相違の判断は重複のズレすなわち差である。その差を式(2)の線形式Lや式(1)の有効除数rを用いて,式(9)の感度βと式(8)のSN比ηという新たな項目として距離Dを求めている。このようにk項目を2項目に落とし,さらにそれらを距離Dという1つの総合指標にまとめることになる。通常の距離Dの解析であれば,項目数以上の原データサンプルを用いて項目間の相関関係を求めるが,本方法では相関情報を使用しないがゆえに,使用しない部分に潜在的に含まれている情報の損失も危惧されるが,ここでは簡便性と解析効率を重視している。なお項目数kが2以上のデータについて,Y1とY2の2項目に縮約してマハラノビスの距離を求める方法がRT法であるが,以下の(1)〜(3)のような問題が考えられる。(1)k項目を2項目に減らすことによる何らかの情報損失の存在。(2)元データの大きさに依存することがあるため,何らかの統計量での基準化の検討。(3)ゼロ点近傍でのズレの問題。(1)については,同じMTシステムの中でk項目全てを用いる逆行列法と比較するのが一番正確かも知れないが,必要なデータ数nが数千となり現実的でないために割愛した。また(2)についてはここでは標準偏差で基準化を実施しているが,この場合は識別結果についてほとんど差異は見られず,望大特性のSN比で比較しても0.2(db)程度の差であった。ただしパターンを形成する元データにおいて,値の大きな数値に支配されるというようにデータ依存性があることから,極端に桁数の大きなデータがある場合は注意を要する必要があるが,元の値が大きいという情報がそもそもパターンの意味に含まれるため,基準化の是非についてはパターンの位置づけに依存するかも知れない。なお(3)のようにゼロ点近傍で距離Dが0からシフトする問題は 5),式(15)におけるY2は本来0になることが望ましいが,Y2<Y−2)≠0となってしまうことが理由であると考えられる。ただし今回はゼロ近傍のデータが検討対象に含まれないため言及せず,今後の課題としたい。─ 18 ─ここでは製品に対する非破壊・非侵襲性を利用し,顆粒製剤に対する近赤外分光法を利用した,簡便な識別法の検討を行った。その結果,画像情報である波形は目視では識別が困難で主観的となってしまうこともあるが,波長ごとの吸光度をデータとし,k=500の多変量データを2変量に圧縮する方法で識別性を検討することで,基準と比較対象では平均で14〜15倍異なることを明らかとした。また大きな値をとる項目への依存性を排除するために,標準偏差で基準化を行ったもので同様の検討を行ったが,この場合についてはほとんど差異が見られなかった。ただしデータ依存性の可能性が高いため,注意を要する事項であると考えられる。なお本方法は項目数kが数万,数十万項目であっても2項目に縮約することができることから,NIR波形に限らず,項目数が多いさまざまな対象への応用が可能であることが考えられる。謝辞本研究の一部は文部科学省平成31年度〜令和3年度科学研究費補助金・基盤研究(C)課題番号19K04891の支援を受けたものであり,ここに謝意を表す。1) 田口玄一,「目的機能と基本機能(11)─認識のためのT法─」,「品質工学」,14,2,2006,5-9.2) 田口玄一,「目的機能と基本機能(12)─マルチT法─」,「品質工学」,14,3,2006,5-9.3) 尾崎幸洋,河田聡編,『近赤外分光法』,東京,学会出版センター,1996.4) Taguchi, G., Chowdhury S., Wu Yuin., The Mahalanobis-Taguchi System, New York, McGraw Hill, 2001.5) 永田靖,土居大地,「タグチのRT法で用いる距離の性質とその改良」,「品質」,39(3),2009,90-101.(R 5.2.28受理) 8.結言参考文献
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