Taguchi)法と呼ばれている解析手法である(以降RT法の表記を採用する)1,2)。RT法で扱われるデータは項目数が2以上で,その数が数百,数千,数万におよぶこともあるが,これを標準化したSN比η(標準SN比η,本稿では以降SN比ηと呼ぶ)と,その感度βという2つの尺度に圧縮して2項目とし,その2項目からいわゆるマハラノビスの距離Dとしてさらに1指標に統合するものである。また一般に変数が多いデータを用いる場合,項目ごとにデータの桁数が異なることが多いため,基準化という処理を行うことが多いが,基準化はパターンが本来持つ情報を変えてしまうことや,RT法では偏差を標準偏差で除すという通常の基準化が行えないという性質がある。そこで,偏差でなく元の値を標準偏差で除す基準化を試み,生のパターン差をダイレクトに用いる場合と,標準偏差で基準化した際の検出感度の変化も検討する。本稿では,外見上では判別がつかない顆粒製剤に対し,品質管理や検査を目的として近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy,NIRS)を用いた品質判定にRT法を適用した結果を示し,多次元データであるNIRS波形を1指標に縮合した判別結果を示すことで,定性的な情報を定量化して識別性を示すこと,また判別分析と異なり非対称な関係にあるため,基準を入れ替えた場合の相違について識別性を検討すること,そして元データの基準化の相違による識別性への影響の3点について論ずることとしたい。製品の品質検査において,対象製品への接触や侵襲がきわめて少ない非破壊検査は重要な評価方法である。とりわけ構造物や加工機といったものが対象の場合,非破壊であることは検査の必須条件である。また非破壊検査にはさまざまな方法があるが,ここでは食品産業全般や医薬品の性状の合否や識別に用いられている,対象に近赤外線を照射してその吸光度の変化を用いる近赤外分光法を取り上げる。たとえば化合物中のOH,NH,CH等の官能基が存在する際の吸収を用いることから,元々は食品や調味料,農産物といった有機物で多く適用されている方法でもあり,トレーサビリティや品質評価の方法として当該分野では主要な方法の一つになっている。医薬品の場合,定量分析の一手法に高速液体クロマトグラフィーなどがしばしば用いられている─ 12 ─が,基本的に破壊試験であり,また試薬・カラム等の消耗品が発生し,さらに使用する試薬等の変動の影響を受けやすく,分析結果の安定性が問題になる。ところがNIRSではそれら試薬を使用することなく,近赤外領域といわれる800〜2,500nmの光を測定対象物に照射して,吸収された波長から他成分を同時的に測定する原理に基づいているため,非破壊試験でかつ再現性に優れている。また高速液体クロマトグラフィーに比べ,安定性や再現性が高いという特徴もある。一般にNIRS波形は多変量データとしての情報を持つため,それらのデータに内在する情報をさまざまな統計的な手法で特徴を構造化する必要があり,相関関係,類似性などの特徴を拾い,識別,判別,分類,一致性,異質性などを判定することになる。また手法的には判別分析や主成分分析,回帰分析といったいわゆる多変量解析によるアプローチが中心となる。なお近赤外分光分析は,頭文字からNIRSと称されているが,3章で示すように使用する機器がFT-NIRと呼ばれているため,特に断りがない限りは以降NIR表記で統一する。品質管理においては,寸法や質量,外観,また動作や機能などというようにさまざまな性質を対象とするが,材料や薬剤,食品などは対象が有する含有量や成分組成などの内部的な性質を問題にする場合が多い。医薬品では外観的に類似した製品を多種類製造しているが,その外観から含量や成分組成といった内部的性質を見極めることは極めて難しい。ここでは2章で述べたように,医薬品の内部的な性質を,近赤外線を照射することで,成分ごとに異なる吸収領域の相違を検出して波長に対する吸光度の変化を波形情報とすることで,外観的に区別が出来ないものの,含量や組成が異なることによる波形の変化で,きわめて簡便かつ簡易的に品質の相違を検出するものである。また近赤外線の照射により得られる波形は安定性が高く,検査の確実性も得られるものである。このような成分ごとに異なる吸収領域の相違を,連続的とみなせる波形形状で見きわめることで,基準とする正常な製品のデータを基準単位量として学習させ単位空間とし,基準に属さない検査対象の製品の波形を簡易的に実施可能とする。その結果,基準製剤との同等性判定,不合格品判定,2.近赤外分光法(NIRS)3)3.波形データの品質管理への応用
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