ジュールの耐熱性を考慮し,最高相転移温度(Tmax)を25〜50℃に有するUCST型温度相転移を示すILs型DSの開発を行っている。これまでに,有機合成による分子構造制御が容易なイミダゾリウム骨格をカチオンとし,アニオンをテトラフルオロボレート([BF4])としたILsを合成し,温度相転移特性および浸透圧特性について報告している11)。本報告では,DS性能のさらなる向上を期待して,[BF4]よりもイオン半径が大きい過塩素酸イオン([ClO4])を対アニオンとするILsを対象とし,相転移特性と浸透圧特性の評価を行った。2.1 イオン液体の合成本研究では,[ClO4]を対アニオンとし,鎖長の異なるアルキルイミダゾリウムをカチオンとする6種のイオン液体[Im(x. y. z)][ClO4]を合成した。x, y, zは,それぞれアミジン構造上の置換基R1,R2,R3の炭素数を表す。求核置換反応によるILs前駆体の合成およびメタセシス反応によるアニオンの置換反応のスキームをFig.1に示す。基本構造となるアルキルイミダゾールと任意の炭素数を有するブロモアルカンを等モル混合し,密閉したデュラン瓶中で水浴を用いて冷却しながら24時間反応させることにより,ILs前駆体[Im(x. y. z)][Br]を合成した。合成したILs前駆体をメタノールで希釈し活性炭を加え,合成物に含まれる不純物を取り除いたのち,0.1 µmのメンブレンフィルターで濾過した。次いで,100 cm3のメタノールに溶解させた等モルのNaClO4をILs前駆体メタノール溶液と混合し,攪拌した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後,不揮発性懸濁試料をジクロロメタンに溶解し,メンブレンフィルターで濾過することによりNaBrを除去した。さらに,濾液に残存するNaBrを除去するため,純水を用いた分液操作を繰り返し,廃水が硝酸銀に反応しなくなるまで洗浄を行った。その後,エバポレーターを用いて共存する純水および溶媒を除去し,得られた不揮発性物質を目的とするILsとした。得られたILsとして,1-メチル-3-ブチルイミダゾリウム過塩素酸塩([Im(1.0.4)][ClO4]),1-メチル-Fig.1 The synthesis scheme of alkyl imidazolium-based ionic liquids3-ペンチルイミダゾリウム過塩素酸塩([Im(1.0.5)][ClO4]),1-エチル-3-プロピルイミダゾリウム過塩素酸塩([Im(2.0.3)][ClO4]),1-エチル-3-ブチルイミダゾリウム過塩素酸塩([Im(2.0.4)][ClO4]),1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム過塩素酸塩([Im(1.1.3)][ClO4]),および1,2-ジメチル-3-ブチルイミダゾリウム過塩素酸塩([Im(1.1.4)][ClO4])は,1HNMR(Ascend 500, BRUKER)(500MHz, CDCl3)による構造解析を行った。2.2 イオン液体/水二成分系における相図作成所定濃度に調製したILs水溶液をクールプレート(CP-085,SCINICS)上で攪拌しながら加熱または冷却していき,相転移が観測された温度を記録した。この操作を3回実施し,得られた3点温度の平均値をその濃度における相転移温度とした。2.3 イオン液体水溶液の浸透圧測定所定濃度に調製したILs水溶液について,水分活性測定装置(AquaLab Series 4TDL, METER)を用いて,50℃における水活量:awを測定し,以下の(1)式を用いて浸透圧[mol kg-1]を導出した。Osmolality[mol kg-1]=(1−aw)/(18.01×10-3) (1)3.1 イオン液体の合成合成した[Im(1.0.4)][ClO4],[Im(1.0.5)][ClO4],[Im(2.0.3)][ClO4],[Im(2.0.4)][ClO4],[Im(1.1.3)][ClO4],[Im(1.1.4)][ClO4]は,いずれも淡黄色の粘調な不揮発性物質として得られた。一方,1H NMR測定からは,Table 1に記載のシグナルが観測され,これらの帰属を行った結果,いずれの合成物も目的の構造であることが確認された。3.2 イオン液体/水二成分系における温度相転移特性各イオン液体/水二成分系の相図をFig.2に示す。合成した全てのILsはUCST型相転移挙動を示し,相転移温度は,分子構造(総炭素数や置換基位置)に依存している傾向が見られた。全体傾向として,総炭素数の増加に伴い相転移温度の上昇傾向が見られるものの,イミダゾール骨格の2位にメチル基が付加している[Im(1.1.3)][ClO4]は,分子量が同じ[Im(1.0.4)][ClO4]や[Im(2.0.3)][ClO4]と比較して,相転移温度が10℃程度低くなっていることがわかる。既報11)より,アニオン種が異なる[Im(1.0.5)][BF4]のモル分率0.06における相転移温度は37.2℃であったが,本報告の[Im(1.0.5)][ClO4]では78.1℃と非常に─ 20 ─2.実 験3.結果および考察
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