*日本大学生産工学部教養基礎科学系助教 **日本大学大学院生産工学研究科博士前期課程応用分子化学専攻2年***日本大学生産工学部応用分子化学科准教授近年,次世代の水処理技術として正浸透(Forward osmosis:FO)法が注目されている1)2)3)。分離膜を用いた水処理技術の主流は逆浸透(Reverse osmosis:RO)法であり,既に実用化されている。しかしながら,RO法は処理対象溶液(Feed solution:FS)の浸透圧よりも高い圧力で駆動する必要があるため,耐圧設備の構築が必要となるだけでなく,高圧駆動によりランニングコストが高くなる4)。一方,FO法は半透膜を介した溶液間の浸透圧差を駆動力とする自発的な水透過現象を利用することから,海水淡水化やFSの濃縮を省エネルギーかつ低コストで行うことができると期待されている5)。FO法の実用化には,最適な駆動溶液(Draw solution:DS)の開発と低エネルギーで再生するプロセスの構築が必須であるため,DSは(1)高浸透圧を発現する,(2)再生・回収が容易,(3)低漏洩性,(4)低粘性の性質が求められる。特に,DS再生時のエネルギー消費を削減する手段として,低品位排熱を利用することが現在提案されている6,7)。すなわち,熱応答により水と溶質成分に液─液相分離する温度相転移型DSを開発する必要がある。そこで本研究ではイオン液体(Ionic liquids:ILs)に着目した。有機塩であるILsは,イオン解離による浸透圧の向上が期待できるだけでなく,分子構造や機能性の制御が容易であり,目的用途に適した溶液物性,温度相転移性の付与が可能である。温度相転移には下限臨界溶液温度(Lower critical solution temperature:LCST)型と上限臨界溶液温度(Upper critical solution temperature:UCST)型があり,最近ではLCST型ILsをDSに用いることが提案されている8,9)。しかしながら,LCST型DSをFOプロセスに適用する場合,正浸透膜モジュールに送液されるDSは低温且つ高濃度であるため,高い粘性に起因したモジュール内圧力損失が深刻となることが予想される。一方,UCST型DSであれば,高温で低粘性の状態で送液できるため,送液動力の低減が期待できるだけでなく,溶質の拡散性に起因する水流束の向上も期待できる。以上より,DSとしてのUCST型ILsに大きな期待が寄せられるが,研究例はほとんどなく,ZhongらがUCST型ILsのプロトン化ベタインビストリフルオロメチルスルホニルイミド([Hbet][Tf2N])を用いた報告があるものの,相転移温度が比較的高く,ILsが強酸性を示すという課題が挙げられる10)。我々の研究グループでは,低品位排熱の温度域や膜モ─ 19 ─日本大学生産工学部研究報告A2022年 6 月 第 55 巻 第 1 号Keywords: Ionic Liquids, Temperature Phase Transition, Osmolality, Forward Osmosis, Draw Solution資 料Temperature Phase Transition and Osmolality Characteristics of Alkyl Imidazolium Perchlorate SaltsTomoki TAKAHASHI*, Takeru NIIZEKI** and Taka-aki HOSHINA***1.緒 言高橋智輝*,二井関武瑠**,保科貴亮***アルキルイミダゾリウム過塩素酸塩の温度相転移並びに浸透圧特性
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