日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第54巻第1号
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─ 19 ─Y3は「製品廃棄時の輸送,処理に伴うCO2排出量の公表」である。数値が付与される業種は皆無であり,特徴づけるほど活動には至っていないことがわかる。4.3 両モデルの分析結果からの考察4.1節,4.2節から,次の5点が環境視点の改善活動に関する課題として整理される。1点目として,環境視点の改善活動では,その実施に比べて,公表が進んでいないことが業種全体の傾向として挙げられる。環境視点の改善活動では製品やサービスといったアウトプットに加え,そのサプライチェーンでの取り組みが行われる。しかし,それは顧客の日常において直接目に触れることが少ない。あらゆる側面からCSRが求められる中,顧客への積極的な発信は今後ますます重要になる。2点目として,改善の実施状況について,施策の多様性が少ないことが挙げられる。どのような製品やサービスにおいてもサプライチェーンに関わるプレイヤーやオペレーションは多様である。全体で取り組むことができる俯瞰的な改善戦略デザインが求められる。3点目として,改善の実施状況について,既存システムの改善レベルの取り組みが主流であることが挙げられる。環境視点の改善活動は,費用対効果の観点からQCDといった管理指標と比べ,利益貢献との関係が表現しづらく,その投資への理由づけが難しい。しかしながら,地球規模での持続可能性が認識される今後は,環境視点の改善が企業評価の価値基準となる。第4次産業革命といわれるデジタル技術の台頭なども見据えながらの既存サプライチェーンのイノベーションが企業間競争の源泉になる。4点目として,改善の公表状況について,動脈物流と比べて静脈物流は進んでいないことが業界全体の傾向として挙げられる。自然界における循環体系と比べ,人間の創造した製品サービスのそれは,いまだ発展途上である。動脈と静脈をつかさどる各産業が連携し,全体としての発信が求められる。5点目として,改善の公表状況について,動脈物流のうち,資材物流は完成品物流と比べて進んでいないことが挙げられる。サプライチェーンの源流に近くなればなるほど,扱う物量は大きくなり,物流も太くなる。そのため1施策の改善インパクトも大きくなる。消費者の日常からは遠い機能であるが,進まない原因を明らかにし,企業や業界の枠を超えたサプライチェーン全体の地球規模への貢献を消費者に理解してもらう発信を期待したい。5.おわりに本稿では国内製造業17業種の改善視点の改善活動とその公表活動について,DEAモデルにより評価を行った。その結果,後者について,顧客への理解や地球環境への貢献の観点から,今後更なる取り組みが求められることがわかった。また,両活動に関する製造業全体の傾向の考察を行った。その結果,改善活動については,現場主体の取り組みが行われていること,公表活動については,製品やサービスの消費に近い動脈物流での取り組みが大部分の業種で行われているということがわかった。今後の課題として,複数年にまたがる分析を行うことによる環境視点の改善活動に関する特性変化の理解や,他改善プロジェクトや他指標の公表活動を取り入れた分析の充実などが挙げられる。参考文献1)Murata, K.: Analyzing Environmental Continuous Improvement for Sustainable Supply Chain Management: Focusing on its Performance and Information Disclosure, Sustainability, 8 (12) (2016), 16 pages, doi:10.3390/su8121256.2)Banker, D. R. Charnes, A., and Cooper, W. W.: Some Models for Estimating Technical and Scale Inefficiencies in Data Envelopment Analysis. Management Science, 30 (1984), 1078-1092.3)Charnes, A. Cooper, W. W. and Lewin, Y. A., and Table 6 A weighting coecient for each indicator (Dμk)業種Y1Y2Y3 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9)10)11)12)13)14)15)16)17)−−1.00×10−2−1.00×10−21.00×10−2−1.00×10−2−−−−−−−−−1.00×10−21.00×10−2−1.00×10−2−−1.00×10−2−1.00×10−21.00×10−21.00×10−21.00×10−21.00×10−21.00×10−21.00×10−21.00×10−21.00×10−2−−−−−−−−−−−−−−−−−※表側,表頭の番号・記号は第3章を参照

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