─ 22 ─滴蒸発モデルなどにも改善の余地が多くあると考えられている。本報では,液滴蒸発速度の詳細な実験データが無いA重油を実験対象とし,焼結鉱製造工程でA重油が霧化される雰囲気温度範囲でのA重油単一液滴の蒸発速度を調べたので,結果を報告する。2.実験装置及び方法Fig.1に使用した実験装置の概略を示す。実験装置は正ヘキサデカン単一液滴の蒸発実験で使用しているものと同じものを用いた3)。詳細は文献3を参照していただきたい。液滴支持器に液滴生成装置を用いて燃料液滴を懸垂し,生成した液滴を支持器ごと高温容器に挿入して蒸発実験を行う。液滴が蒸発する様子は,バックリット法を用いて観察した。画像の記録には,高速度ビデオカメラ(Phantom, Miro 3)を用いた。画像の空間分解能は液滴生成部が330 pix/mm, 高温部が317 pix/mmである。このビデオカメラは,最小コマ速度である10 fpsで撮影しても最長で3分間しか撮影ができない。そこで,低温度雰囲気の蒸発実験では,高速度ビデオカメラで動画を撮影し終えた直後から,フリーソフト(HiMacroEx)を用いてPCモニタ上の高速度ビデオカメラのライブ画像(画像の空間分解能は高速度ビデオカメラと同じ)を一定時間間隔で連続的に記録した。これらの画像から,自作の画像解析プログラムで液滴直径の時間履歴を求めた3)。Fig.2の下側に今回の実験で使用したガラス針と,上側に燃料に正デカンを用いるときのガラス針を比較して示す。正デカンの蒸発実験では,先端の外直径が40 μm,細い部分の長さが170 mmのガラス針を使用している。A重油は正デカンに比べて粘度が高いので,ガラス針における燃料の流動抵抗を減らすため,A重油の実験ではガラス針の外直径を70 μm,細い部分の長さを100 mmに変更して用いた。雰囲気気体には窒素を使用した。雰囲気温度Taは,373 から 573 K の間を50 K 刻みで変化させた。雰囲気圧力Paは0.10 MPa で一定とした。初期液滴直径d0は0.50 mm ± 5%とした。各実験条件において5回実験を行った。液滴の蒸発速度は,正規化95vol%液滴寿命τ95/d20と瞬時液滴蒸発速度係数k’で評価した。正規化95vol%液滴寿命とは,液滴の体積が初期体積の5%になるまでの時間を初期直径の2乗で除した値である。液滴蒸発において残留物が発生する燃料や蒸発最後期の蒸発速度が非常に遅い燃料の蒸発速度評価に適した特性値である4)。無次元液滴直径の2乗(d/d0)2と正規化時間t/d02の関係を表すグラフにおいて,無次元液滴直径の2乗が0.12と0.2 の間を最小二乗法を用いて直線近似し,その直線から液滴体積が初期体積の5%になる正規化時間,すなわち無次元液滴直径の2乗が0.135となった正規化時間を求め,正規化95vol%液滴寿命とした。初期加熱期間τhは,液滴が観察位置に静止してから膨張する期間を経て無次元液滴直径の2乗が1に戻るまでの時間と定義した。瞬時液滴蒸発速度係数は,無次元液滴直径の2乗と正規化時間の関係を表すグラフにおいて,連続する5つのデータを最小二乗法で直線近似し,近似直線の傾きに-1を掛けて中央のデータの正規化時間の値とした。各実験条件で行った5回の実験データを一つのグラフにまとめ,液滴膨張期間を経た後の無次元液滴直径の2乗が1から0.12に減少する期間を0.08間隔に等分割し,各分割区間で無次元液滴直径の2乗と瞬時蒸発速度係数の平均値を計算した。3.実験結果Fig.3に液滴直径の時間履歴を示す。縦軸は無次元液滴直径の2乗,横軸は液滴が観察位置に静止してからの経過時間を初期直径の2乗で除した正規化時間である。各グラフには同一実験条件で得られた5つ全ての履歴が示されている。いずれの雰囲気温度においても,5つの履歴が重なっており,再現性が高い実験が行えたことがわかる。雰囲気温度の増大に伴って,液滴が膨張している期間が液滴寿命に占める割合が大きくなっていることがわかる。初期加熱期間以降も,無次元液滴直径の2乗が直線的に減少する区間がほとんど見られず,準定常蒸発理論から導かれるd2則が成り立っていないことがわかる。また,いずれの雰囲気温度においても,蒸発最後Fig. 1 Experimental apparatus.Fig. 2 Glass needles.
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