日本大学生産工学部 生産工学部研究報告A51-2
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─ 19 ─が認められた。しかし,実験値の方がシミュレーション値よりも大きな数値となった。両者間の誤差率は,左脳側の視床で最も大きく,シミュレーション値に対して実験値が+35.2%である。この原因の1つとして,サーチコイルの有効半径の取り方が考えられる。本実験では有効半径を巻厚の中央までとしたが,巻厚の外側まで(r=3.6 mm)とすると,その誤差率は+13.6%へと減少する。その他にも,実際の口腔内コイルと解析モデルとの大きさの違い,シミュレーション領域のとり方などが,誤差の原因として考えられるが,現段階では特定できていない。誘導電流密度の結果をFig.9に示す。海馬における電流密度は口腔内コイル角0~87 deg.にかけて0.353~1.97 A/m2,視床および視床下部では0~88 deg.にかけて0.728~3.67×10−1 A/m2が得られた。ここで,左右の海馬で異なる数値が得られたのは,頭部数値モデル自体が幾何学に完全な対称モデルでないことに起因する。具体的には,導電率が異なる周囲部位と海馬の相対位置が左脳側と右脳側で異なることで誘導電流密度の分布に左右非対称性が生じた結果であると考えられる。5.結 言脳底部刺激用の口腔内コイルを設計製作し,脳底部を想定した位置での磁束密度を計測した。また,頭部モデルを用いた数値解析を実施した結果,磁束密度のグラフにおいて実験結果との整合性が認められ,結果の妥当性を確認できた。脳の直接の刺激作用である誘導電流密度は,海馬において最大で約2 A/m2が得られた。この値は,刺激強度の目安となる電気刺激時の10 A/m2の20%と小さいが,印加電流や巻き数などコイルの設計仕様の改善により,海馬への刺激に対しては有効となる可能性があると期待できる。今回,口腔内コイルの角度依存性を確認するために,90 deg.までコイル角度を動かした。その結果,解析値であるが90 deg.近くで誘導電流密度の最大値が得られた。今回の結果を踏まえて,今後の口腔内コイルの設計に反映する。謝辞本研究の遂行に際して,研究の基礎を共につくってくれた安藤研究室卒業生の片山大輔氏に感謝の意を表す。本研究は科研費「挑戦的萌芽研究」(課題番号25560241)にて平成25年~26年に助成を受けて実施した研究,およびその後の継続研究の成果である。研究者分担者の東京大学大学院 関野正樹准教授,高知工科大学 朴啓彰客員教授,東京大学 和田仁名誉教授に深く謝意を表する。特に東京大学大学院 関野正樹准教授には,実験装置の使用および研究遂行上にて多くの助言を頂いた。また,独立行政法人情報通信研究機構,北里大学,慶應義塾大学及び東京都立大学の共同開発による数値人体モデルデータベースを使用した。 参考文献1)片山容一,大島秀規:パーキンソン病に対する視床下核刺激療法の現状と将来,脳神経外科ジャーナル,11 (2002),333-338.2)中尾直行,小倉光博,板倉 徹:不随意運動に対する外科的治療,脳神経外科ジャーナル,12 (2003),81-88.3)C. Gabriel: Compilation of the dielectric properties of body tissues at RF and microwave frequency, Technical Report of Brooks Air Force Base, AL/OE-TR-1996-0037, (1996). 4)眞野行生,辻貞俊:磁気刺激法の基礎と応用,医歯薬出版株式会社,(2005),178-181, 225-228.5)低温工学協会 編:超電導・低温工学ハンドブック,(a) Hippocampus part(b) Thalamus and hypothalamus partsFig. 9 Induced current densities for various coil angles at each brain parts in the simulation.
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