日本大学生産工学部 研究報告A(理工系)第51巻第1号
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─ 2 ─(1)のβiの最小化を目指すことで運行の効率化を目指した。具体的には,エレベーター内の人の動きをシミュレーションと実証実験の援用により解析し,βiを最小化するための乗降者配置システムを構築した。なお,「乗降時間βi」を「乗車時間xi」,「降車時間yi」,「扉の開閉時間zi」に分ける,すなわち,βi=xi+yi+ziとすると,「1階からほとんどの人が乗り込み各階で降りる」という特殊な状況を想定しているので,y0=0,xi=0(i=1,2, ..., N),zi=const. (i=0,1, ..., N)であることにご注意いただきたい。また,この条件のもとでは,yiの最小化はy1の考察が適用できるので,本稿においてはβ0+β1,つまり,本質としては, x0+y1(2)に注目し,この値の最小化に向けて議論を進めていく。本稿の構成としては,第2章で,先行研究3),4)で行われたシミュレーションと実証実験をもとに,人の乗り降りの効率化には「人の乗車位置の適正化」が重要であることを示す。大雑把には,エレベーター内を「中央・外側」または「前方・後方」と分けたときに,降車する人をどこに配置すると降車時間がどのように短縮されるかをシミュレーションにより確認した。また,「降りたくない人」が「降りたい人」の妨げになることも効率化で考慮しなくてはならないことを明らかにした。そして,第3章では,第2章で得られた効率化を実現するためのシステムについて紹介し,実際に構築したシステムを用いた実証実験と,その結果について議論する。2.シミュレーションによる効率化の考察2.1.セルオートマトン「エレベーター内の人の動き」を考察するためには,エレベーター内部を観測することが必要である。そのためには,常に観測者が乗っているか,もしくはビデオ撮影を行うかになるが,前者の方法は傾向をつかむほどのデータ数を得るには観測者の負担が大きすぎたり,観測者が乗降の妨げになったりもする。また,後者の方はプライバシーの問題があり実現が難しい。そこで我々は,交通流でよく用いられる「セルオートマトン」の手法5),6)によりエレベーター内部のシミュレーションを行うことを考えた。セルオートマトンについては紙面の都合により詳細な説明は省略するが,格子状の細胞に単純な時間発展規則を定めた離散的計算モデルである。簡単な例として,細胞には「活性」と「不活性」の2状態があるとし(以降,■と□により表す),その細胞を一列に並べた状態を考える。並べた細胞の時刻tでのn番目の細胞の状態をunt∈■, □で表すことにする。さらに時間発展は,時刻tのuntunt-1,unt+1,により時刻t+1のunt+1が決まる規則として,→untunt-1,unt+1unt+1,を□, □, □□, →□, □, ■□, →→□, ■, ■■,□, →□, ■, □■, □, □■, →■, □, ■□, →→■, ■, ■■■, →■, ■, □で定めることにする。例えば,Fig.1の最上段を初期状態とすると,時間発展の規則によって,2段目以降のパターンが一意的に得られる。このFig.1で「■を車がいる」,「□を車がいない」と見ると,車(■)は前に空き(□)があると前に一つ進み,前に車(■)がいると進まない,すなわち,簡単な交通流モデルとして見なすことができる。セルオートマトンは交通流だけでなく,我々のように人の動きを表すモデルとしても用いられているが,主に避難シミュレーションのモデルとして活用されている7)。2.2.シミュレーション前節のモデル(Fig.1)と比較すると,エレベーター内の人の動きを表すためには, (1) 直線(1次元)的な動きから平面(2次元)的Fig.1 Example of cellular automata (It looks like a trac ow.)
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