日本大学生産工学部 研究報告A(理工系)第51巻第1号
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─ 12 ─フィルムをベースとしてその両面に原子核乳剤を塗布したものが一般的である。大きさもその用途により,さまざまなものが製作可能である。乳剤の組成も,使用目的により調製が可能である。一般的に原子核乾板の乳剤は普通の写真フィルムの乳剤と比べると,ハロゲン化銀含有量が多い。またその粒子径は0.5μm以下の微粒子で粒子サイズが揃っている。そのため原子核乾板の感度は,電子ひとつにさえ感光するほどである。この乳剤層に荷電粒子が通過すると,その飛跡に沿って感光され,現像することにより可視化され光学顕微鏡で素粒子の飛跡を観測できることとなる。一方,電荷のない中性の粒子の飛跡は記録されない。原子核乾板の際立った特徴は,1μm以下の解像度で三次元的に素粒子の飛跡を捉えられるという点であり,これは他の飛跡検出器を寄せ付けない2)-4)。原子核乾板はこれまでに,飛跡の観測により,直接には目で見ることのできない素粒子のさまざまな特性を顕わにしてきた。過去,飛跡の検出は,顕微鏡での測定に時間がかかり,解析全体の時間を多く費やす作業であったが,近年の飛跡読み取り技術の進歩により,全自動飛跡読み取り装置が開発され,その測定時間については大幅な改善がなされた5),6)。3 現像室の整備改善3.1 整備前の暗室の状況素粒子の飛跡観測のためには,原子核乾板を暗室で現像する必要がある。素粒子の飛跡を測定するときには,飛跡以外のノイズが少なければ少ないほど良い。原子核乾板には感光性があり,白色光が厳禁であるのは当然であるが,たとえ赤色光であっても強いものは排除したい。このように,素粒子の飛跡測定が目的の原子核乾板の現像では細心の注意が必要となる。原子核乾板現像用の暗室として,日本大学生産工学部 実籾校舎 物理実験棟3階の306室を使用した。本室はもともと過去に写真用暗室として使用されていたために,遮光カーテンや水道など最低限の条件は揃っていた。306室はFig.2に示すように二部屋に分かれている。両部屋とも4.60m×3.05mの広さがあり,各部屋にエアコンが取り付けられている。現像室は,2009年に一度,原子核乾板を現像するように試験的に手を加え,経年劣化して破れが目立った窓側の遮光カーテン(カーテン状の暗幕)の新調等を施した。しかしながら,2016年1月に確認したところ,カーテン以外に遮光が不十分な箇所も多くあることがわかった。また,両部屋ともに本実験以外の機材が多数ある状態であった。3.2 暗室の整備作業原子核乾板の大量現像作業のために,本格的な整備改善を2016年2月2日から同年3月10日の期間で行った。306室の窓側の部屋を現像室に,廊下側の部屋を原子核乾板の乾燥や現像に必要な薬品貯蔵とその他準備作業のための準備室にするよう計画し,整備改善作業を実施した。まずは,本実験以外の機材を部屋の外に移動し作業空間を確保した。そして,整備重点項目である暗室の遮光強化を行った。Fig.2の点線枠部分は遮光作業を実施した箇所を示している。現像室では,備え付けの遮光カーテンはそのままにし,窓に暗幕シート(ポリ塩化ビニル製)を二重に貼り付け遮光を強化した(Fig.2-①)。廊下との出入り口および準備室との連絡通路の遮光(Fig.2–②)には,窓の遮光と同様に暗幕シートを多重に取り付けた。廊下との出入り口は各シートが入れ子になるように3重の,現像室の入口にあたる連絡通路は4重の暗幕シートにより遮光を施した。また当該箇所は人の出入りが生じ強度を持たせねばならないので,まずFig.3のように上辺の部分を黒ガムテープで固定し,更にその上からあて木をつけ木ネジで固定した。現像室のみならず準備室までも暗室にするのは,仮に不測の事態で現像室の出入口のドアが開放された場合であっても現像室が暗室状態を保持できるようにするためである。照射実験で得られた原子核乾板は世界にひとつしかないため,このような安全策が必要となる。暗幕シートの取り付け作業が一通り終了した後に,何度か暗室状態にして光漏れを確認し,光漏れがあればそれを遮光するという作業を繰り返した。例えば,エアコン等の電子機器の運転灯や天井の蛍光灯端部からの残光を発見した。これらの光が現像に影響を及さないよう,暗幕シートを用いて発光部分を覆うカバーを取り付けた。特に蛍光灯は排熱も考慮し,Fig.4のように蛍光灯に対して暗幕シートをアーチ状に取り付けて通気性も確保した。遮光作業完了後,Fig.5,Fig.6の様に現像室,準備室へ実験器具等の設置を行い,現像準備を整えた。なお,備え付けの暗室灯の赤色フィルターを二重にする処理もFig.2 Floor outline of the development and preparation rooms with shade enhancement points.

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