無重力燃焼実験で
地球の未来を考える。

機械工学科 野村 浩司

無重力燃焼実験で地球の未来を考える。

機械工学科 野村 浩司

エネルギー問題の解決策を無重力実験から考える

私たちの生活を支える「エネルギー」は、約90%が燃料を燃やすことによって生み出されている。「家の車は電気自動車だよ」と言う人もいるかも知れないが、その電気もほとんどが天然ガスや石炭、石油などの化石燃料を燃やして電力に変換されているのが現状。限りある化石燃料を上手に燃やしてエンジンの効率向上を図ることは、将来の地球に暮らす人たちのために今の私たちがやらなければならないことである。

なぜ無重力環境で燃焼研究を行うのか

無重力環境を利用する多くの燃焼研究者は、自然対流の発生を抑制するために無重力環境を利用している。エンジンの燃焼器内に存在する直径が数十マイクロメートル程度の燃料の粒は、地上で燃える場合でもその燃焼は重力の影響をほとんど受けない。ところが、そのように小さな燃料の粒では実験や観察が難しいので、研究には1ミリメートル程度の燃料の粒が用いられる。そうなると自然対流の影響が顕在化する。そこで、実験・観察が容易であってかつエンジン内と同じ燃焼現象が観察できる無重力実験というアイディアが生まれたのである。

大学の研究室から宇宙

私たちの研究室では、キャンパスに設置された「落下塔」と呼ばれる設備を使用して燃料液滴の燃焼に関する無重力実験を行っている。この施設により、約1.1秒の無重力環境を作り出せる。実験装置を搭載したカプセルが塔の最上部から地上に落下するまでの間に実験を行うという手法である。炎の写真は、細いファイバの交点に保持された燃料液滴の列を燃え広がる火炎の様子を示している。自然対流の影響が無いため、火炎は縦に引き延ばされることなく燃焼している。エンジンの中で燃料の液滴が一列に並んでいたとしたら、このような火炎が燃え広がっているはずである。私たちは火炎の連続画像から、燃え広がり速度や燃料が燃え尽きるまでの時間などを計測している。

長い無重力時間を必要とする実験は、落下塔では行えない。そのような場合は、宇宙実験の公募に応募し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)やNASAに協力してもらって宇宙実験を行う。今年は、JAXA、NASA、山口大学、九州大学、その他多くの機関と協力し、国際宇宙ステーションの「きぼう」モジュールで宇宙実験を行う。実験装置はHTV(こうのとり)によって今年の夏に種子島宇宙センターから打ち上げられる予定で、学生が研究室で手作りした部品が一部使われる。実験データが宇宙から送られてくるのが今から楽しみである。

社会の基盤を支える燃焼機関の効率向上・排出ガス浄化が全てのエンジンメーカーやプラントコンストラクターに求められています。しかしながら、燃焼機関は自動車エンジンやジェットエンジン、火力発電所のように非常に複雑な機械であり、開発から生産までに多くの時間と労力を必要とする製品です。これらを技術者の感やトライアル・アンド・エラーに頼るのではなく、社会の要求に短時間で効率的に応えていくためには、燃焼機関で燃料がどのように燃えているのかを知り、精度良く予測するための知見やシミュレーション技術が必要になります。私たちの研究は、社会の要求に応えられる燃焼機関の効率的開発・生産性向上に資する成果を追求しています。

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