最新の統計分析手法でイノベーションを生む組織学習を考える。

マネジメント工学科 大江 秋津

最新の統計分析手法でイノベーションを生む組織学習を考える

マネジメント工学科 大江 秋津

ビッグデータで組織学習とイノベーションを紐解く

組織があたかも人のように学習することを組織学習といい、研究ではこの組織学習の視点からビッグデータや企業データを利用して、新しいモノやサービスを生み出すイノベーションの仕組みや条件を見つけようとしています。最近よく聞くビッグデータを用いて統計分析を行うと、人の経験や直感で感じることや気付かないことまで証明できます。例えば、インフルエンザ予想は、病院の患者数では無く、Google検索で入力された病気に関連する膨大なキーワードの統計分析からできるとする研究もあります。
社会の基盤である組織学習は、産業や時代に関わらず研究できます。近年、社会の情報公開が進み、各種データも利用しやすくなりました。実際に研究では化学災害・自動車工場・サッカー・江戸時代の藩校等の様々なデータを利用します。個別の事例ではなく、多くの組織のデータを同時に解析することで、様々な産業の普遍的な仕組みを見いだせることに研究の楽しさと意義を感じます。

(清水・渡部・大江, 2016, 経営情報学会誌,24(4))

知識移転の仕組みをネットワーク分析で照らす

研究では統計分析だけでなく、組織と組織の関係を線で結ぶネットワーク分析も利用しています。例えば、複数の海外自動車工場に技術知識の移転がある場合に、工場同士を線で結ぶことで、工場のグローバルネットワークを視覚化できます。各工場のネットワーク上の位置や情報伝達のしやすさなども数値化して、統計分析にかけられます。このネットワーク分析は、社会における複雑な組織学習の状況を数値化して、イノベーションを生み出す仕組みの解明につながるだけでなく、視覚化によりデータの理解がしやすくなり、研究をしていて楽しい手法でもあります。

シミュレーションゲームによる社会実験

メーカー・卸・小売りといった商品が流れる仕組みをサプライチェーンといいます。新たに開発したオンラインシミュレーションゲームでは、スマホやPCから参加者が小売り・卸・メーカーとなって、流通の仕組みを体感できます。さらに、成功のための戦略を立ててプレゼンテーションやディスカッションも行います。このゲームの企業研修への導入も始まりました。研究ではゲームのデータによる統計分析を通じて、サプライチェーンをうまく管理するために必要な組織学習の仕組みを明らかにすることに取り組んでいます。このように研究を通じて教育や社会へ貢献することを常に考えています。

外資系企業で経営コンサルタントとしてキャリアを積んでから研究者の道に入りました。研究では様々な業界を扱いますが、コンサルティング企業との共同研究や生産工学部の先生方からのアドバイスから新しいアイデアも生まれます。現場の方へのインタビューも実現しやすく、新たな発見も多くあります。例えば化学工場の爆発事故の研究では、小さな事故が減ると現場の事故への対応経験が減り、大きい事故が起こりやすくなるという発見の解釈も、現場の方の指摘からでした。それと同時に、個別の事故を扱う現場の専門家も、普段感じることが多くの組織で同様に発生していることを数値で示せることに、大きな驚きを持ってもらえました。サプライチェーンゲームも含めて、今後も研究成果を産業界へ積極的に公開して、社会に還元したいと考えています。

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