RESEARCH

ハイテク・リサーチ・センター研究 プロジェクト

平成17年度文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業(ハイテク・リサーチ・センター)採択

グリーン・サステイナブルな先端有機材料の高機能化と高選択的分離分析システムへの展開

研究概要

生産工学研究所では私立大学ハイテク・リサーチ・センター整備事業計画に基づいて、平成12年度から5年間、生産工学部ハイテク・リサーチ・センターにおいて、環境に優しい生産技術の確立を基軸とした研究プロジェクトを進めてきました。このうち、プロジェクト「環境保全に役立つ技術とサステイナブルな先端有機材料の開発」では、水溶媒系での有機合成プロセスの開発、高分離機能を有するヒドロゲルの創成ならびに環境負荷を低減するとともに環境保全に大きく貢献する機能性材料の創出に成功するとともに、機能性材料を用いた環境適合型分離分析システムの開発など、環境モニタリングのための計測技術の進歩に大きく貢献することができました。これらを具体的に以下に列挙します。

  1. ポリエチレンなどの高分子基質に酵素を共有結合法で固定化することにより、酵素活性を保持した種々の機能性膜の開発に成功した。これにより酵素を工業的規模で繰り返し利用できる可能性を示すことができました。
  2. 汎用高分子を光グラフト重合することにより各種機能性膜を調製し、その膜の吸・脱着特性を利用して有機イオンや金属イオンの抽出・濃縮を行った。これにより種々のグラフト化汎用高分子膜を利用した物質除去複合膜システムの構築への可能性を見出しました。
  3. 新規に合成した水溶性カリックスアレーンを逆相間移動触媒として用いることにより、水だけを溶媒とする環境調和型反応プロセスを開発することに成功しました。さらに、種々の有用な合成反応に適用できることを示しました。
  4. 酒石酸誘導体などの光学活性ホスト存在下でのエノン類の固相光化学反応を行い、反応時に有機溶媒を必要としない環境調和型の選択的合成反応が実現できることを示しました。
  5. 天然ゼオライトなどの無機系未利用資源やカニの甲羅やビール粕などのような生物系廃棄物を用いた環境汚染物質、特に重金属イオンの高感度モニタリング法の開発を行い、幾つかのものについては利用可能であることを明らかにしました。
  6. 多孔質グラファイトの酸化還元触媒活性を利用したオンカラムおよびオンライン酸化還元化学種変換システムを考案し、これをHPLCに導入して新規分離選択性を有する分離分析法を開発しました。

今回研究するハイテク・リサーチ・センター構想は、機能性材料の創成と新規分子計測技術の創出に関して成果をあげた前プロジェクトを継承し、さらに進展を図るべく、得られた成果に基づいて、先端化学材料の高機能化を目指すとともに、新規に提案したオンライン化学種変換分離分析システムをより広範囲な物質の高選択的分析法として展開することを目指すものであります。これにより、合成から分析までのプロセスにおけるグリーンケミストリーを達成するとともに、各種材料から環境試料、さらには生体試料中の微量化学物質のモニタリング法を確立します。新規機能性材料の開発における高速分析や化学物質の使用による環境負荷のより迅速な評価を可能にします。

これまでの化学研究プロジェクトの多くは、「合成」と「分析」という2つの基本的なアプローチにおいてそれぞれ単独の目的を掲げて立ち上げられることが多くありました。また、化学の広い分野に分散する研究者を有する大学内の研究組織にあっては、個々の研究者の力を実質的に糾合することが困難でありました。本プロジェクトは、前プロジェクトのうち、化学種の分離およびセンシングを目指した先端有機材料の開発研究と、高選択的化学種分析システムの開発研究を融合させたものであります、このため少人数の研究者で構成された組織となっていますが各研究課題の成果が真に有機的に結びつき、連携する形態をとっています。これにより、一つの研究課題によって得られた研究成果を研究組織内で積極的に利用かつ発展させることが可能で、全体としてより大きな成果に結びつけることができます。

一方、多くの有用な原料を消費し、かつ有害な物質を使用したり、廃棄物を生み出したりする消費型の物質合成プロセス、および有害物質を大量に使用する分析法の利用は、もはや許容されないものとなっております。サステイナブルで環境にやさしい技術に置き換えられることが、幅広い産業分野で強く望まれています。すなわち、21世紀の化学研究は、環境に負荷を与えない合成および分析システムの開発という側面を常に念頭に置きながら進めなくてはならないと考えます。本プロジェクトは前プロジェクトのテーマの一つである「サステイナブルな先端有機材料の開発」を継承し、かつ、さらにこれを拡大して、合成から分析までのすべてのプロセスを総合的にグリーン・サステイナブルなものとするシステムの開発を同時に進めることを意図しています。グリーン・サステイナブルケミストリーとは、製品や製法の開発、使用、廃棄、リサイクルまでのすべてを考え、人と生態系の健康への悪影響を低減する経済的で合理的な化学技術をいいます。本研究プロジェクトは、従来の「環境にやさしい代替材料または代替分析法を開発する」という視点を超えて、「環境に負荷を与えない先端有機材料の高機能化、および高性能分析法をグリーン・サステイナブルな手法で開発する」ことを目指すもので、今後の化学研究を進めていく上できわめて重要な指針を与えるものであります。

研究テーマ

このように、本拠点における上記研究プロジェクトの実施は、材料化学はもとより、環境保全、資源エネルギー開発などの分野において大きく貢献するものであります。

  • オンライン化学種変換分離分析法の開発と分離選択性および効率の検討
  • 高選択的分離を指向した機能性材料の創製
  • 新規クラスレートの構築による選択的固相合成
  • グラフト化高分子のヒドロゲル化と酵素の固定化
  • 分子認識能を有する新規包接化合物の開発と液/液二相系反応および抽出・分離プロセスへの応用
  • 酵素固定化技術の開発と環境浄化システムへの応用
  • ポリペプチド超分子系の構築とセンシング材料への展開
  • 環境中の金属イオンの分離濃縮および高感度モニタリング法の開発

※上記掲載内容は、プロジェクト実施当時のものです。

このプロジェクトの研究報告書