日本大学生産工学部研究報告B(文系)第53巻
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─ 3 ─料として利用され,さらには将兵らの軍事教練用の視覚教材や,ニュース映画の原画としても利用されていた3)。SCのこの撮影任務は,彼らの全任務に占める比率として僅か3%に過ぎなかったが4),大戦中にSC関係者が撮影した写真枚数は月平均で10,000枚に及び,1945年初頭までには,利用価値の高い写真として423,000枚が選別・保存されたことが記録されている5)。今回紹介する横浜法廷などの対日戦争犯罪法廷の写真はその一部を構成するもので,それを編綴したのが図1の黒いファイルとなる。なおNARAにはこの黒ファイルの他に,図3のような保存箱に収められた対日戦争犯罪法廷関連の写真もあり,その枚数は黒ファイルのものを遥かに凌いでいる。因みに両写真資料の関連性を調べるために筆者は,2018年3月に黒ファイルの方の写真からサンプルとして30枚を選び出し,同一写真が保存箱にも存在しているかを確認してみたところ,①全サンプル写真と同一のものが保存箱内に収められており,②その一方で保存箱には黒ファイルでは見られない戦犯法廷関連写真が多数確認された。③なお,この②の保存箱内だけに見られる写真について,その撮影内容の質・レベルを黒ファイルのものと比較すると,記録写真としては素人目でも明らかに低いものであった。このことから黒ファイルの写真は,保存箱内の写真を原画にして選り抜いた可能性を指摘できるが,その選別目的はよく分かっておらず,NARAのスタッフに黒ファイルの由来を照会したが「不詳」との回答があった。次にNARAにおけるこの黒ファイルの保管状況について紹介する。現在NARAには膨大な冊数のファイルが保管されており,NARAでは各ファイルに4ケタの番号を割り振って管理している。本稿で紹介する16冊の法廷写真集のうち,第1冊目にはNo.5585の番号が,そして最終冊にあたる第16冊目にはNo.5600の番号が付されている。因みにこの16冊の黒ファイルの直前・直後の黒ファイルにはどのような写真が収録されているかというと,第1冊目の直前ファイル(No.5584)にはドイツの戦犯法廷関連の写真が,そして第16冊目の直後ファイル(No.5601)には大戦終結前後のヨーロッパ戦域や太平洋戦域の写真が綴じられており,少なくとも対日戦犯法廷とは関係のない写真内容となっている。ただしNo.5584ファイルには,数枚の横浜法廷関連写真が混在しており,本稿で紹介するNo.5585からNo.5600以外の黒ファイルにも存在していることになり注8),今後,それらの写真の調査も行う必要性もある。なお,黒ファイルの写真の編綴方法であるが,各ファイルには1頁につき1枚大の写真が綴じられており(図5参照),ファイル1冊に付き約100枚前後の写真が収録されている。本稿では,このNo.5585からNo.5600の16冊の法廷写真集に焦点を当てて,横浜法廷関連の写真資料紹介とその分析を試みる。2.2 法廷写真集の写真状況法廷写真集に収録されているSC撮影の写真には,その写真の片隅にSCの徽章が記され,必ず6桁の整理番号が付されている。各ファイル内の写真に付された整理番号を見ると,そのナンバリングには一応の規則性は見られるが,欠番や下2桁レベルでの順不同も多々あり,整理番号としての完全な用をなしていない。またファイルに綴じられている写真内容も,東京裁判と横浜法廷のものが混在しているなど,撮影写真の整理分類,あるいはファイルへの収録・編集にあたって,統一的な方針があったようには思われない。次にキャプションの概要であるが,キャプションは各写真の裏面に付されており,表面の撮影内容も然ることながら,この法廷写真集の資料的価値を高めている。こ図3 The National Archives at College ParkのSC撮影写真保存箱筆者撮影図4 保存箱内(図3の物)の写真保存概況The National Archives at College Park所蔵画像(画像請求番号:RG111-SC/ Contact Print220665-220944/ Box323)。この保存箱にはSCが世界各地で撮影した写真が,4枚一組式のシートに入れられて保管されている。筆者撮影。

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