日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第52巻
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─ 6 ─4.考察本研究では,クォーター制の導入による英語必修基盤科目運用の変更が授業満足度に与える影響を検証した。従来は授業満足度の平均値を時系列で比較していたところを,様々な要因によるバイアスを排除した回帰不連続分析を行うことで適切な評価を行うことが主眼であった。例えば,表4に示した平均値だけを検討すると,Practical English IA/IA(S),IIA/IIA(S),IIB/IIB(S),IV/IV(S)では授業満足度は単調増加しているように見える。しかしながら,各年度で各授業を評価している学生や,各科目を担当する教員が異なることから,回帰不連続分析による比較を行ったところ,クォーター制導入によって授業満足度が統計的に有意な水準で向上しているわけではないことが明らかとなった。ただし,共通シラバスに基づく指導内容の統一などの影響を本研究では分析できていない。2018年度授業満足度調査の結果はまだ公表されていないため,今後も継続してデータの収集および分析を続けていく必要がある。同様に,必修基盤科目としての英語を受講することで学生の英語運用能力が向上しているかも検証しなければならない。クォーター制の下では,1学期が8週とセメスター制の半分に限られるため,短期集中型の授業計画を立てることが求められている。特に授業外学習を促すための取り組みについては,授業の間隔が短いため質と量の両側面において検討課題となっており,現在,各教員が試行錯誤を重ねている段階にある。引き続き教育効果の観点から各事象を観察し,授業内外で設定する言語活動の内容を精選する必要がある。また,新制度下でみられた具体的な課題として,学生にとってカリキュラムの説明が不十分であった点が挙げられる。学生には学習内容や課題提出の期日,試験の日程といった複数の異なる情報が短期間に集中して示されるため,自己学習の計画が整理できず,混乱する様子が散見された。この点については,与える情報の内容および伝達方法を吟味して改善しなければならない。また,実務的な手続きの面で,学期末試験の頻度がセメスター制の倍となったため,問題作成・採点・成績処理といった教職員の負担が大きくなっている。これについては教職員間の役割分担ならびに情報共有をもって効率化を図る。クォーター制のメリットを最大限に生かしつつ,学生の英語運用能力向上に資する授業科目の運営および調査・分析を重ねていくことが今後も求められるだろう。参考文献1)山川一三男.(2015).「授業評価アンケートのまとめ─平成16年度から平成25年度まで─」『日本大学生産工学部第48回学術講演会講演概要』,821-822.2)Thistlethwaite, D. L., & Campbell, D. T. (1960). Regression-discontinuity analysis: An alternative to the ex post facto experiment. Journal of Educational Psychology, 51, 309-317.3)R Core Team (2016). R: A language and environment for statistical computing [Computer program]. Retrieved from https://www.R-project.org/4)Plonsky, L., & Oswald, F. L. (2014). How big is “big”? Interpreting eect sizes in L2 research. Language Learning, 64, 878-912.(H 31.2.10受理)図2 回帰不連続分析による条件付平均介入効果の推定.図中央の太線はセメスター制における英語授業満足度の予測値とクォーター制における英語授業満足度の予測値の差を示す.

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