日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第52巻
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─ 17 ─1.はじめに教育用例文コーパスSCoRE(http://www.score-corpus.org/)はデータ駆動型学習(data-driven learning: DDL)を効果的に支援する強力なツールである。DDLとは,外国語学習法の一つであり,この学習法において,学習者は複数の言語使用例を注意深く観察し,語彙の意味や文法などを帰納的に探索する。つまり,創始者のTim Johnsが言及しているように,学習者自身が「言葉の探偵(language detective)」となって,コーパスから「自力で様々な言語の傾向性や法則を発見していく」(Johns, 1997: 101)1)学習法である。DDLによって高い学習効果が得られることはすでにいくつかの研究によって報告されている2),3)。授業でのDDL実践では,教師は事前にJohnsが言うところの「発見」を導くことができるような問いかけを準備しておき,学習者はその問いかけに答えるために,自らパソコンを操作するか,あるいは,ハンドアウトを用いて,複数の英文を観察し,規則性を探る。過去を振り返ってみると,DDLの初期において,英語学習者に提示する英文の提供元となったのはBritish National Corpus(BNC)やCorpus of Contemporary American English(COCA)であった。しかし,これらのコーパスのレベルは日本人学習者の多くには合致しないため,日本の英語教育の現場でDDLを導入するのは困難であった。そこで,日本人英語学習者のレベルに合わせ,基礎的で,簡易な英文を用いたコーパスの必要性から開発されたのが,SCoREである4)。SCoREは日本人英語学習者に対するDDLの実践を想定し,簡易な英文を集積したコーパスと操作しやすいインターフェースを併せ持つ。学習者の文法理解や定着を促す目的を持つSCoREは,コンコーダンスラインを提示するだけでなく,文法項目ごとに,その当該文法項目が用いられている英文と対応する日本語訳を表示することもできる。この日本語対訳は,学習者の学習負荷や心理的負担を下げ,英文の構造や文法に注力させることを意図したものである。SCoREを利用したDDL実践の参加学習者は日本語対訳が付けられていることを好意的に評価していることが報告されている5),6)。また,SCoREを用いたDDL授業の実践は継続して重ねられており,学習効果が高いことや,学習者の満足度も高いことなどが,複数,報告されている7),8)。SCoREは,DDLの実践だけではなく,学習に適した英語例文のデータバンクとしても非常に有用である。その理由には,DDL実践用として実用的であることと重複するが,特に,SCoREを構成する英文が文長と米国の語彙習得学年の基準に基づいて,難易度別に初級,中級,上級に区分されていること,現在進行形,現在完了資  料日本大学生産工学部研究報告B2019 年 6 月 第 52 巻学習者に適した教育用例文コーパスSCoREの日本語対訳文に関する研究若松弘子*,中條清美**A Study on Learner-Appropriate Japanese Translations for the Sentence Corpus of Remedial English (SCoRE)Hiroko WAKAMATSU*,Kiyomi CHUJO**Keywords:データ駆動型学習, 教育用コーパス, パラレルコーパス, 翻訳 *茨城大学非常勤講師**日本大学生産工学部教養・基礎科学系教授

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