日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第52巻
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─ 12 ─総語数異語数ギロー指数=語彙の多様性は,語彙研究や文体研究などの幅広い分野で活用されており,異語率やギロー指数以外にも様々な指標が提案されている(Baayen, 2001; Malvern, Richards, Chipere, & Duran, 2004)37),38)。また,平均文長や平均単語長などの指標をライティング評価に用いることもある。これらの指標は,多くの単語からなる文,多くの文字からなる単語は難しい,という仮説に基づき,以下のように計算される。総語数総文数平均文長=総文字数総語数平均単語長=4.2 品詞情報・構文情報自然言語処理の技術を用いて,テキストに品詞や文法,構文などの情報が付与できる。まず,ライティングで用いられている個々の単語に品詞情報を自動付与し,品詞構成率を算出することで,ライティングの文体的特徴を概観することが可能になる。たとえば,学習者コーパス研究では,初級の学習者のライティングに名詞や代名詞が特徴的である一方,上級の学習者のライティングでは副詞や関係詞が効果的に用いられていることが知られている(e.g., Granger, 1998)39)。また,日本人英語学習者の場合は,日本語には存在しない冠詞の頻度が習熟度と関連していることもある。なお,TreeTagger注3)やCLAWS注4)のような品詞情報自動付与ツールを用いると,テキスト中の時制や態などの文法情報も付与される。この情報を活用することで,初級者と上級者の間に存在する文法項目の使用傾向の差異を数量化することができる。さらに,Stanford Parser注5)やCharniak Parser注6)などの構文解析器を用いると,名詞句や前置詞句の長さ,関係節の埋め込みの深さといった構文上の特徴を分析することもできる。学習者のライティングには文法的な誤りや不自然さが存在するため,母語話者による文章を解析した場合と比べて,構文解析の精度が低くなることもある。しかし,近年は,L2 Syntactic Complexity Analyzer注7)のような学習者の文章を構文解析するためのツールも開発されている(Lu, 2010)40)。4.3 リーダビリティ文章の難しさを測るための指標として,リーダビリティが利用可能である。様々なリーダビリティの指標が提案されているが,代表的なものとしては,Flesch Reading Ease(Kincaid, Fishburne, Rogers, & Chissom, 1975)41)が挙げられる。Flesch Reading Easeは,以下の公式で計算され,0~100の数字をとる。そして,数字が多いほど読みやすいことを表し,60~70が標準とされる。総語数総音節数-総文数総語数84.6Flesch Reading Ease=206.835-1.105また,Flesch Reading Easeのバリエーションとして,Flesch–Kincaid Grade Levelがある。これは,以下の公式で計算され,計算結果は米国の学年に相当し,数字が大きいほど文章が難しいことを示す。因みに,6~10程度が望ましいと言われている。59.1511.8Flesch-Kincaid Grade Level=0.39- 総文数総語数+総文数総語数リーダビリティは,複数の言語項目(総語数,総文数など)を一つの値に要約したものであるために学習者が結果を解釈しやすい,という利点を持っている。4.4 キーワード前項までに言及した言語項目は,ライティングの質を数量化するための指標である。それらの指標は,研究者にとって身近なものであるが,教師や学習者自身にとっては必ずしも分かりやすいものではない。そこで,フィードバックという観点では,実際にどのような語句を使うことができて,どのような語句を使うことができないのか,という具体的な情報が必要となる。そのような情報を得るには,コーパス言語学の分野で開発されたキーワード抽出の技法が有用である。コーパス言語学におけるキーワード抽出は,二つのデータにおける全ての単語の使用頻度を比較し,どちらかに顕著に多く出現している単語を自動抽出する技術である。二つのデータにおける頻度の比較においては,カイ二乗値や対数尤度比のような検定統計量,オッズ比やクラメールのVのような効果量が用いられる。たとえば,英語母語話者が書いたライティングと日本人英語学習者が書いたライティングを特徴づける単語を抽出することで,「母語話者らしい英語」や「日本人らしい英語」を分析することが可能になる。そして,自動フィードバックにおいては,学習者のライティングとより質の高い(より高い習熟度を持つ書き手による)ライティングと比較し,学習者が統計的に過少使用している単語に注目することで,「よりよい英語を書くために習

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