日本大学生産工学部 研究報告B(文系)第52巻
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─ 10 ─ド(例えば,冠詞の誤りにart,前置詞の誤りにpreと記すなど)が代表的なものである。The focus of the feedbackには,Unfocused CFとFocused CFの二種類が存在する。前者は学習者の誤りを全て修正することを指し,後者は修正する誤りのタイプを焦点化するタイプのフィードバックを指す。Electronic feedbackは,教師が誤りを示し,正しい語法の例を示しているコンコーダンスラインへのハイパーリンクを示すフィードバックを指す。Reformulationは,学習者が産出したプロダクトに対して,元の内容を維持しながら,できるだけ学習言語の母語話者に近づけるように内容を再構成することを指す。近年のフィードバック研究は,多様な展開を見せている。具体的には,実験デザインではなく,生態学的なデザインのフィードバック研究が行われてきている(e.g., Han, in press)24)。たとえば,Amano(2018)25)は,教員が原稿に書き込むフィードバックの種類を選択する権利を学生に与えた試みについて報告している。この研究によると,学習者が教師から受けたいフィードバックは多様であり,最初のドラフトとそれを修正したドラフトではそれぞれ異なるフィードバックを組み合わせるのが効果的であると学習者は感じている。具体的には,最初のドラフトでは,Direct CFをもらい,それを修正したドラフトでは,Question feedback,すなわち内容についてコメントをもらうフィードバックを好むと報告されている。学習者の選好を調査するフィードバック研究はこれまでも行われてきたが,学習者の好みに応じてフィードバックを行う研究はユニークな視点であり,自動フィードバックシステムの実装にとっても示唆的である。また,Han and Hyland(2018)26)は,感情とフィードバックの関わりについても検討している。この研究によると,WCFがもたらすのは必ずしも否定的な感情ばかりでなく肯定的な感情でもあることや,WCFに対する感情的な反応は動的であって変化し得る。これらの点も,自動フィードバックについて検討する際には重要である。本項の内容をまとめると,これまで多くの実験的なアプローチにより,様々なライティング・フィードバック研究の知見が蓄積されてきたが,近年では生態学的なデザインを採用したアプローチの研究も蓄積され始めており,それらの知見を基に自動フィードバックについて検討する必要がある。3.2 自動フィードバックの現状3.2.1 外国語教育・応用言語学の観点から本項では,外国語教育・応用言語学の領域で行われてきた自動フィードバックについて論じる。最初に自動フィードバックの研究が出版されたのは1980年代であり,Grammar Writer’s Workbenchなどがその先駆けとして知られている。このシステムでは,規則に基づいて文法的誤りを検出するアルゴリズムが用いられていた(Leacock, Chodorow, & Tetreault, 2015)27)。1990年代半ばになると,規則に基づくアプローチから統計に基づくアプローチへと少しずつ移行していった。この歴史的経緯については,自然言語処理の技術が発達していく過程と密接な関係があり,辻井(2012)28)などに詳しい。Dikli(2010)29)は,自動採点システムによるフィードバックと教師によるフィードバックの長所と短所を表1のようにまとめている。表1にあるように,自動採点システムは,教師よりも短い時間で一貫したフィードバックができると言われている。しかしながら,自動採点システムが誤ったフィードバックを与える可能性があることも指摘されている(自動採点システムによるフィードバックの精度については,次項で言及する)。また,WCFとAWCF(Automated Written Corrective Feedback)には,下記の三つのような問題点が存在し得る(Ranalli, 2018)30)。一つ目は,学習者にとって有益な情報量の違いが教育的な配慮というよりも技術的な限界によって決定されるかもしれないという点である。二つ目は,自動採点システムによる誤表1 自動採点システムと教師によるフィードバックの長所と短所(Dikli, 2010に基づく)自動採点システム教師長所・即座に採点とフィードバックができる・一貫した採点と体系的なフィードバックができる・人間が採点する手間がかからない・多くのライティングを採点し,フィードバックを与えることができる・具体的なフィードバックができる・必要な情報だけを与えることができる・人と人の関わり合いが存在する・個人に合わせたフィードバックができる短所・人と人の関わり合いが存在しない・一般的で冗長なフィードバックになりがちである・過度なフィードバックを与えることがある・誤ったフィードバックを与えることがある・技術的な問題が生じる可能性がある・人間が採点する手間がかかる・採点とフィードバックが主観的になりがちである・多くのライティングに対応する時間が必要となる・一貫したフィードバックをしそこなう可能性がある

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