日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第53巻第2号
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─ 18 ─観察できることから,C-S-Hと低Ca成分である非晶質のTobermorite gelの分布からなるC/S比1.4程度の領域とそこから更に結晶化が進んだC-S-Hと11Å Tobermoriteの分布からなるC/S比1.1程度のSiO2リッチとなる領域,つまりこれらの混相こそが,セメント硬化体のオートクレーブ養生による高強度発現機構の根幹ではないかという仮説を立てた。現状はこれらを分析・解析する手法が存在しておらず,これ以上の推定は,現状不可能であるため,想像の域を出ないことを付記するが,今後,微小部X線回折装置24)の適用も検討したいと考えている。また,C/S比が低下し,結晶性の11Å Tobermorite生成過多の方向に進行するにしたがって圧縮強度は低下した結果についても,これまでの知見を裏付けるものとなったが,結晶性の11Å Tobermoriteが多量に生成されるC/S比0.83以下のC-S-H組成に関しても今後検討を行う必要がある。5.まとめ本研究で得られた成果は,以下の通りである。⑴長時間のオートクレーブ養生によって圧縮強度が低下することに加え,その挙動は,シリカフューム添加率ならびにオートクレーブ養生200時間以降で異なることがわかった。⑵シリカフュームの添加率に関らず,オートクレーブ養生時間が200時間まで養生時間に比例して圧縮強度は増加しており,これに伴いゲル空隙量も増加していることから,圧縮強度の増加は,長時間のオートクレーブ養生によってC-S-Hの生成が活性化し,内部の微細構造の緻密化を示すゲル空隙量の増加による微細空隙の充填によることを示した。⑶粉末X線回折において,オートクレーブ養生時間が200時間の場合で11Å Tobermoriteの回折が認められたが,これはブロードであることから,結晶性の点では高くない。しかし,養生時間300時間,500時間の場合では,養生時間に比例して11Å Tobermoriteの結晶性の高度化が明確に確認された。⑷11Å Tobermoriteの生成量が最大となった養生時間500時間の場合は,圧縮強度が極端に低下した。11Å Tobermoriteの生成量は6-50nmの毛細管空隙量が増大し,全空隙量が増加する内部の微細構造の粗大化が圧縮強度低下の要因であることを裏付けた。ただし,一般のコンクリート二次製品の製造に用いられているオートクレーブ養生は3時間程度であるため,特段の条件変更は必要ない。⑸EPMAによるC-S-H組成の検討によって,C/S比が低下し,結晶性の11Å Tobermorite生成過多の方向に進行するにしたがって,圧縮強度は低下する結果が得られたが,結晶性の11Å Tobermoriteが多量に生成されるC/S比0.83以下のC-S-H組成について今後検討が必要である。謝辞:本研究は,JSPS科研費(若手研究(B),JP16K18132,代表者:山口晋)の助成を受けたものである。ここに記して謝意を表す。参考文献1)那須將弘:プレキャストコンクリート製品の活用の現状と普及のための課題,コンクリート工学,Vol.55,No.9,pp.800-803,2017.92)北垣亮馬,三谷卓摩,長井宏憲,野口貴文,兼松学,藤本郷史:プレキャストコンクリート製品の使用による環境負荷削減に関する研究,日本建築学会学術講演梗概集. A-1,材料施工,pp.581-582,2010.73)柿澤英明:コンクリート二次製品製造における CO2 低減の取組み,コンクリート工学,Vol.48,No.9,pp.102-105,2010.94)山口晋,越川茂雄,町長治,鵜澤正美,伊藤義也:シリカフューム混入高強度モルタルのオートクレーブ養生温度低温化,無機マテリアル学会誌,No.18,Vol.354,pp.254-259,2011.5)須藤儀一:オートクレーブ養生の高強度発現機構,コンクリート工学,Vol.14,No.3,pp.20-24,(社)コンクリート工学協会,1976.6)丸山武彦,土田伸治,川崎徹:オートクレーブ養生,コンクリート工学,Vol.32,No.3,pp.64-65,1994.7)山口晋,鵜澤正美,町長治,伊藤義也:低温オートクレーブ養生の養生時間に着目した超高強度モルタルの強度発現性に及ぼす影響,無機マテリアル学会,No.20,Vol.362,pp.9-14,2013.8)山口晋,鵜澤正美,岩﨑直郁,小川洋二,伊藤義也,町長治:水セメント比およびシリカフュームの添加率に着目した低温オートクレーブ養生に関する基礎的研究,材料,No.62,Vol.10,pp.615-620,2013.9)前田拓海,鵜澤正美,山口晋:長時間オートクレーブ養生モルタルの強度発現性と微細構造の変化:材料,No.64,Vol.6,pp.471-478,2015.10)竹本国博:オートクレーブ養生によるセメントの水和,窯協,No.73,pp. C91-C97,1965.11)須藤儀一:高圧養生,セメント・コンクリート論文集,No.271,pp.27-35,(社)セメント協会,1969.12)(財)日本建築センター:既成コンクリート杭の変遷,らぴど,No.10,pp.4-7,2002.13)(公)土木学会:2018年度制定コンクリート標準示方書[基準編]土木学会基準および関連基準,

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