日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第53巻第2号
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─ 12 ─は,オートクレーブ養生による高強度化に必須と言われてきた11Å Tobermoriteの生成5),6)が支配的要因ではないという新しい知見によるもので,オートクレーブ養生によるセメント硬化体の高強度化は,非晶質のケイ酸カルシウム水和物であるC-S-Hの多量生成による空隙の充填であることを示している。7),8)さらに,11Å Tobermoriteの生成量増加に伴い,強度低下を起こす知見も得られている。9)なおこの知見は,これまでの研究成果において一般的な数時間程度のオートクレーブ養生時間の場合では11Å Tobermoriteの生成が認められなかったことから,10×10×20mmの微小な角柱供試体を用いて長時間のオートクレーブ養生を実施した場合の検討結果である。ここで最も強度を発現したのは,C-S-Hの多量生成だけではなく,非晶質から結晶質へと変化する過程のTobermorite gel,そして結晶質の11Å Tobermoriteが混在する場合である可能性が示されている。そもそも,オートクレーブ養生によるコンクリートの高強度化は, 1960年代に竹本10)や須藤11)によりその理論が国内で初めて総説され,1970年代に入り地中杭等の製造にも用いられるようになった12)。そして技術が普及した後,現在の製造現場においても11Å Tobermoriteの生成を目的とした180°C-1MPaの製造条件で製造されている。そのため,我々が提案しているC-S-Hの多量生成による緻密化を主とする低温型のオートクレーブ養生方法を確立するためには,従来から必須とされてきた11Å Tobermoriteの生成が,オートクレーブ養生によるセメント硬化体の強度発現性に及ぼす影響を明らかにする必要がある。しかし,強度発現の主たる要因としているC-S-H組成を含めた検討はまだ行っておらず,11Å Tobermoriteの影響を明らかにするには,これらの検討が必要と考えた。以上のことから本研究は,コンクリートのオートクレーブ養生による高強度発現機構の更なる解明を目的として,JSCE-G505「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験」13)に準拠したφ50×100mmのモルタル円柱供試体を用いて,11Å Tobermoriteの生成を目的とした長時間のオートクレーブ養生を実施し,11Å Tobermoriteの生成と強度発現性,細孔空隙ならびにペースト試料を用いた電子プローブマイクロアナライザ(以下,EPMA)を活用したC-S-H組成との関連に着目した検討を行ったものである。2.実験方法2.1 使用材料使用材料は,セメント,シリカフューム,細骨材(水洗い珪砂5号),高性能減水剤および消泡剤である。使用したセメントは,普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm3,比表面積:3370cm2/g,SiO2:20.3%,CaO:64.3%)で,ケイ酸源となるシリカ質混和材は,シリカフューム(密度:2.30g/cm3,SiO2:96.7%,BET比表面積:11.8m2/g),さらに,セメント硬化体の高強度化として充填密度向上に伴う中間粒子の役割を果す珪石微粉末14)(密度:2.66g/cm3,比表面積:3670cm2/g SiO2:93.3%,平均粒径6μm),そして珪砂(水洗い珪砂5号,絶乾密度:2.66g/cm3,吸水率:0.5%,粒度280〜980μm),ならびに高性能減水剤には超高強度コンクリート用SP8HU(ポリカルボン酸エーテル系,密度:1.05g/cm3)および消泡剤にはマスターエア404(ポリアルキレングリコール誘導体系,密度:0.99g/cm3)を使用した。2.2 配合条件および供試体作製本実験で用いた供試体は,後述する圧縮強度試験,細孔空隙測定はモルタル硬化体,粉末X線回折ならびにEPMAはセメントペースト硬化体を用いた。まず,モルタルの配合はTable 1に示す通りで,実製造条件を考慮してW/Cは30%とし,シリカフュームはW/B=20%となるように珪石微粉末を混合した。なお,添加率は,0%,5%,10%の3水準とした。高性能減水剤の量は,型枠への充填性や材料分離を考慮し,一定のフロー値に調整した。次に,セメントペーストの配合をTable 2に示す。この配合は,上記で述べたモルタル配合を基準とした。練り混ぜは,20°Cの環境室内で5リットルのモルタルミキサーを用いて行った。まず,モルタル硬化体の練Table 1 Composition of mortarW/C(%)Percentage of added Silica fume(%)(kg/m3)Water※CementSilica fumeQuartz powderSandWaterreducerAntifoaming agentWCSFQSSPT3001956500.0294.1130019.539.0532.5256.61065.0219.0※:Including Water-reducer + Antifoaming agent

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