日本大学生産工学部研究報告A(理工系)第52巻第2号
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─ 21 ─1.はじめにこの資料は,おもに参考文献1)を日本語訳したものであり,課題の章に量子ウォークの確率分布に関する新しい数値計算結果を含む。粒子のランダムな運動を表わすランダムウォークは,様々な現象を記述することができ,多方面で応用されてきた。ランダムウォークの量子版である量子ウォークも量子コンピュータの基礎理論構築と関連し,その応用が考えられている2)。量子ウォークは2000年頃より活発に研究され始め,各モデルに対する様々な定理の導出とともに,これまでに興味深い性質が明らかにされてきた。レビューとして,Konno3),Kendon4),Venegas-Andraca5)などが挙げられる。また,日本語の解説書として,今野6),町田7)がある。量子ウォークとランダムウォークの違いの1つは,粒子の空間的な分布(確率分布)である。よく知られているように,ランダムウォークの確率分布は二項分布であり,空間を√tでスケーリング変換した確率分布は,中心極限定理により,tを十分大きくしたとき,正規分布(ガウス分布)で近似される。一方,量子ウォークの確率分布は,tで空間をスケーリング変換することで,逆正弦則の確率密度関数のような,ある確率密度関数で近似される。量子ウォークの確率分布がもつ大きな特徴は,ゆらぎと鋭いピークをもつことである。粒子が原点から出発したとき,確率分布はランダムウォークの場合O(√t)で広がるが,量子ウォークの場合はO(t)となる。2.3周期時刻依存型量子ウォーク時刻依存型量子ウォークの極限分布は,これまでに2周期時刻依存型モデルまで明確な表示が得られている8)。1次元格子上の3周期時刻依存型量子ウォークを定義する。量子ウォークのシステムは2つのヒルベルト空間資  料日本大学生産工学部研究報告A2019年 12 月 第 52 巻 第 2 号ギャップ構造を確率分布にもつ時刻依存型量子ウォーク町田拓也*A Time-Dependent Quantum Walk Whose Probability Distribution can Hold a GapTakuya Machida*Quantum walks can be considered as quantum analogs of random walks in mathematics. Long-time limit theorems for quantum walks have been studied so that we approximately estimate where the walkers are observed after they are repeatedly operated with unitary operations. In this paper, we focus on a discrete-time quantum walk on the line. The presented result is a long-time limit distribution for a 3-period time-dependent quantum walk. The limit distribution shows an interesting behavior and can hold a gap in distribution. We also see numerical experiments for the future problems.Keywords:Quantum Walk, Limit Theorem, Gap*日本大学生産工学部教養・基礎科学系専任講師

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