日本大学生産工学部 研究報告A(理工系)第52巻第1号
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─ 7 ─核乳剤を構成する元素中の荷電粒子の運動量とdE/dxの関係を調べるため,陽子については,SRIM201321)を,ミュー粒子についてはParticle Data Groupから提供されている表22)を用い,原子核乳剤中におけるそれぞれのdE/dxを算出した23)。Fig.8中の低運動量領域では,陽子とミュー粒子の理論カーブが重ならなくなり両者が分離されていることがわかる。Fig.7では,VPHの角度依存性を考慮しなければならないが,VPHの値は阻止能の大きさを反映しており,低運動量側でプロット点群が2つに分かれているため,Fig.8と比較し陽子とミュー粒子(またはパイ粒子)を分離できることがわかる。5.4 ニュートリノ反応の検出結果最後にこれらをまとめた成果としてFig.9に,粒子飛跡データ解析後の結果を用いて,実際のNINJA実験でのニュートリノ・原子核反応現象を再現(再構成)した一例を示す。図は3次元で描いており,図の下側からニュートリノが入射しているが中性粒子のためにその飛跡は見えない。そのニュートリノと鉄標的の原子核が相互作用し,2つの荷電粒子が放出されているのがわかる(Fig.9では2本の飛跡として描かれている)。Fig.7のVPH-pβ解析の情報も加えると,図の右側の飛跡は陽子によるもので,左側の飛跡はミュー粒子またはパイ粒子であることがわかった。左側の飛跡は,ECC群下流のINGRIDで得られた解析情報から最終的にミュー粒子であることが判明した。今回現像した原子核乾板の飛跡を解析することで,ニュートリノ反応現象を再構成することができた一例である。これにより,日本大学生産工学部で現像した原子核乾板が,物理解析に耐えうる性能をもつことがわかった。今回の照射実験(RUN6)では,照射されたニュートリノビームの総数から,数千個のニュートリノ・原子核反応が標的兼検出器の中に蓄積されたと予想される。今後,これらの解析が進み1 GeV領域のニュートリノ・原子核反応断面積に関する新たな知見が得られるものと期待されている。6.まとめ新型原子核乾板の大量現像処理が可能な環境を,日本大学生産工学部に新たに構築した。そして,実際の素粒子実験でニュートリノビームを照射し荷電粒子の飛跡データが記録された大量の原子核乾板の現像,乾燥,膨潤を目標通り行うことができた。その原子核乾板の乳剤層の厚みは設定通りの70±3μmとなり,それらは飛跡検出効率が95%以上と十分高く,更に粒子識別能力をもつこともわかった。解析の進行により実際のニュートリノ・原子核反応も検出できており,この新しい現像処理施設が十分な処理能力,性能を備えていることが実証された。このように,物理解析に耐えうる新型原子核乾板の大量現像処理を生産工学部で実施することが可能となった。次期計画では今回の4倍の枚数となる大量現像処理を再び生産工学部で行うことが他大学からも期待されている。本論文で得られた成果をもとに,現像缶等のサイズ見直しと配置の再検討,新たに廃液処理の効率化を図り,次期計画に対応する予定である。現在その準備を着々と進めているところである。今後,さまざまな原子核乾板を用いた素粒子実験は国内外を問わず継続的に行われていくため,今回のこの現像室を含む統合的環境構築により,日本大学生産工学部が今後も継続的に最先端の素粒子実験に対して貢献することが可能となった意義は大きい。謝辞本研究を遂行するにあたり,東邦大学理学部物理学科素粒子物理学研究室,名古屋大学理学部物理学教室F研の方々からの協力を得ました。この場を借りて深く感謝申し上げます。日本大学生産工学部 教養・基礎科学系の山川一三男准教授(当時),三木久美子准教授,森健太郎助手には現像液の廃液処理にご協力頂きました。ここに記して御礼申し上げます。参考文献1)Y. Fukuda, et al. : Evidence for Oscillation of Atmospheric Neutrinos, Phys. Rev. Lett. 81(1998), Fig.9 An example of 3-dimensional view of neutrino–Fe interaction. The right side track is a proton and the left track is a muon track, both are generated by the interaction.

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