日本大学生産工学部 研究報告A(理工系)第52巻第1号
5/58

─ 3 ─2.2 新型原子核乳剤を用いた検出器従来,原子核乾板は専門の会社で製造されたものを購入するか,写真乳剤を購入し,塗布するしかなかった。ところが近年,大学でも乳剤製造が可能になり,研究に最適な乳剤を開発し,製造することが可能になった。その臭化銀結晶サイズや含有量は様々で,研究目的に応じて最適なものを選ぶことができる。これにより,荷電粒子に対する感度を研究者が変えることができるようになった。これが新型原子核乾板である。反面,乳剤層中のノイズ銀粒子量や素粒子飛跡に対する潜像退行などの性能性質も様々で,保存や使用の環境,現像処理環境にも開発の要素が伴う。そこで,NINJA実験に用いる新型原子核乾板も,感度特性や潜像退行特性の研究とともに,現像・膨潤処理環境を新たに立ち上げることになった。これが,本論文で紹介する日大生産工学部の現像室である。今回取扱った原子核乾板は,2016年1月31日から5月27日の期間にニュートリノビームを照射したもので,実験グループ内部の通称RUN6乾板を日本大学で現像した。NINJA実験(RUN6)では,鉄板(SUS304) 250mm×250mm×0.5mm 22枚,新型原子核乾板 250mm×250mm×0.3mm 23枚を1つの標的兼検出器としており,これをECC(Emulsion Cloud Chamber)と呼び,その模式図をFig.2に示す。1枚の新型原子核乾板は,厚さ180μmのポリスチレンシートの両面に厚さ60μmの乳剤を塗布したものである。また,NINJA実験では,銀含有量に応じて,高銀,中銀,中低銀,低銀(それぞれ銀含有量:55%,45%,35%,31%)といった新型原子核乾板を開発しているが,ここで報告する原子核乾板は,中銀乳剤を用いて製作されたものと,高銀乳剤を用いて製作されたものがある。ECC群の下流にはFig.3のように,乾板のみで構成されるシフター(時間分解多段シフター,時間ごとに位置をずらしタイムスタンプ機能を実現した原子核乾板28枚)および電気的な信号で飛跡を捉えるINGRID (Interactive Neutrino Grid)15)と呼ばれる装置がある。中銀は粒子の識別が必要なECC(276枚)に用い,高銀は飛跡の検出効率が重要なシフターおよびchangeable sheet(CS)に用いた。CSは,ECC間を相互につなぐものと,ECCとシフターをつなぐものとがあり,原子核乾板計14枚である。高銀は中銀よりも定着時間が長くなる。これら新型原子核乾板の大量現像を国内で行ったことはなく,現像処理環境の構築が望まれていた。3.現像処理環境の構築NINJA実験に用いる新型原子核乾板は大きさが250mm四方もあり,そのために,以下のような条件を兼ね備えた大型現像処理環境の構築が必要となる。・遮光が適切になされている現像室,・大型原子核乾板を暗室で取扱える空間の確保,・純水器が設置されている,・温度と湿度の監視と管理ができる,・乾燥室が隣接または近くにあること。今回の現像の対象となる原子核乾板のサイズと枚数,そして現像処理後の厚みをTable 1にまとめる。これらの原子核乾板の現像処理等のため,日本大学生産工学部 実籾校舎 物理実験棟3階の306室を暗室作業室とした。今回の原子核乾板の大量現像処理は,ビーム照射直後の2016年5月に計画されていたために,2016年2月2日から同年3月10日にて本格的な整備改善作業を行った8)。Table 1 The size of nuclear emulsion lms for development.サイズ[mm]枚数現像後の乳剤層の目標厚[μm]250×25028470250×30034703.1 環境暗室作業室のサイズ等をFig.4に示す。2部屋に分かれており,両部屋とも4.60m×3.05mの広さがあり,各部屋の室温管理は,備え付けのエアコンで行った。Fig.4の点線枠部分は遮光強化作業を実施した箇所である。Fig.3 Detector overview of NINJA RUN6 experiment.Fig.2 An ECC consists of 23 nuclear emulsion lms interleaved with 0.5mm thick iron plates.

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る