日本大学生産工学部 研究報告A(理工系)第52巻第1号
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─ 40 ─る広がりと立体的な形成に関して,相互の関連をもちつつ重層的に成り立つ傾向がみられた。本研究の成果は集住体として居住階に着目し,周辺環境との関わりを整理することにより,建築・都市・地域計画と一体となった集合住宅の集住体の計画において基礎的な資料になり得ると考えられる。注注1)集住体:前掲(参考文献2,8,9)のを参照し,本稿における「集住体」とは,居住者の意識について居住者が暮らす地域空間との関係性において複数の中層・高層・超高層の集合住宅群と周辺環境との関係性をふまえ,これらを集住体としてとらえる(本文では中層・高層・超高層の集合住宅の集住体と呼称する)。注2)変位階層:既往研究(参考文献2,8)において,二つの視点から定義と把握を行ったものである。一つの視点は,居住階の変化に伴う認知領域の面積の傾向を示す近似曲線の変節点(増加と減少が転じる階層,増加または減少が緩やかになる階層)の認知領域項目間の重なりである。加えて数量化Ⅲ類を用いた類型分析の類型毎の居住階の分布である。この二つの視点から,居住者の環境認知の特性が変わる境界域となる傾向がある階層,類型の境界域となる傾向がある階層として「変位階層」と定義し,おおまかな階数を把握した。本論でもこの定義と類型に基づいて分析・考察を行った。前掲(参考文献2,8,9)の注2を参照し,加筆した内容である。注3)圏域図示法:認知領域調査の手法として既往研究(参考文献1~11)において用いた調査方法であり,調査対象地域をよく認知している被験者を対象とした場合に有効であり,自己の住居の周辺地区などの,比較的限定された小地域の空間を対象とした研究に適している。認知の有無や広がりなどの量的な側面だけでなく,被験者の内部にある空間の切れ目を示してもらうことにより,間接的にその構造を探ろうとするものである。対象者は,日常生活の中で形成される地域に対する時間的な認識のプロセスにおいて形成される認知領域について調査するため,中学生(12歳)以上を対象とする。(時実利彦は,「脳の話」(参考文献12)「人間であること」(参考文献13)において,時間を表すことばが正しく使いこなせるには,10歳をまたねばならないと分析している。)調査は,アンケート記入用紙と白地図を使用し,基本的にアンケート用紙は調査員が記入し,白地図に描かれる領域は被験者に記入してもらう。注4)構成要素:既往研究(参考文献2~9)において用いた概念である。前掲(参考文献10)のpp.71左.9行~右.10行を参照し,「わたしのまち」「身近な水辺」「身近な緑地」「にぎわい」「行動範囲」及び「近隣住民」としての構成要素を点的要素,線的要素,面的要素,時間的変動要素に分類する。この分類ですべての構成要素を網羅しているとはいえないが,圏域研究としての地域空間において一定の構成要素まとまりが存在するととらえた場合,この分類は一つの基準となりえると考えられる。また,このことは地域において実態圏域をとらえる場合,構成要素間相互のまとまりを分析することは重要である。本論においては,「月島駅」などの特定の場所が点的要素,「隅田川」などの要素が線的要素,「川沿い」などの範囲を示す要素が面的要素として分類した。これに加え時間変動要素を加えたものがこれまでの既往研究からも継続されてきた分類である。近年の認知科学における問題意識として時系列における認知領域の問題と視覚のみではなく聴覚等と認知領域の関係性との問題意識が顕在化している。これらのことから点・線・面のみの分類では全体像の分析を行えない。そこで本論では,点,線,面ではとらえられない「心地よい(風・眺め)」,「草花におい」,「川の音」などの構成要素を時間変動要素として分類する。また,「認識しない」は認知領域が描かれなかった場合の回答である。注5)時間的変動要素:前掲(参考文献10)のpp.71左.9行~右.10行により本研究では,認知と認識の相違は時間的プロセスを含むものが認知であることからも,認知領域を構成する要素において,視覚的な要素だけでなく,聴覚や嗅覚などで知覚できる要素,移動する乗り物や動物などの時間的経緯で変化する要素も取り扱う。注6)調査内容:本稿の調査項目は既往研究(参考文献10,pp.70 右.13行~pp.71 左.8行)を参照し,既往研究(参考文献2,7,8,9)と同一の調査内容の項目を使用しており,各項目の説明を以下に示す。①属性:「今のお住まいの居住年数は何年ですか?」などの質問によって,調査対象者の属性を調査。②日常ルート:「あなたがよく利用する道路はどこですか。地図に囲んでください。」などの質問によって,日常ルートを調査。③行動範囲の認知領域調査:「あなたの「行動範囲」は,どこですか?地図に囲んでください。」などの質問によって,行動範囲の認知領域を調査。行動範囲の領域構成要素について,「「行動範囲」について思い出すもの,印象的なもの,特徴的なものを数に限りなくあげてください。(建物・名称・樹木・看

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